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翻訳コラム

COLUMN

第129回AppleとMotorolaの判決続報

2014.02.13
弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子

数回にわたってAppleとMotorolaの訴訟を伝えてきました。AppleのデバイスはMotorolaの特許を侵害していないというITCそして連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の判断です。
CAFCの判決にDroid 2という製品が記載されています。これはMotorolaの製品であることがわかりました。この製品を拠り所にして、これがクレーム12の要件を充たすと主張しました。そしてこれがAppleのデバイスが類似するとMotorolaは主張したのでしょうが、Appleが侵害しているというためには、Motorolaの特許のクレーム12とAppleのデバイスが類似していることが必要です。
しかしDroid 2はクレーム12の要件を充たしていないと判断されました。クレーム12の要件とは前回も述べたように、一つのアクセス可能性の変化により、アプリケーションレジストリの更新と、固定化された部分への通知の変更が生じるということです。
ユーザの介入なしのMotorolaのDroid 2のアプリケーションのアクセス可能性の変化と、アクセス可能性の変化が通知されることの関連性を立証する十分な証拠は提出されていないと判断しました。
Droid 2のアプリケーションのインストールと削除、そしてプッシュ通知の登録と登録抹消は、Appleのデバイスと共通するが、Droid 2はクレーム12の要件とは一致しないというのです。つまり製品が似ていても、特許のクレームと被疑製品が同じでなければ侵害は成立しません。
この特許で図5の説明を訳してみました。

FIG. 5 is a flow diagram 500 depicting a first operation of the controller 112 in accordance with the present invention.

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図5は、本発明にかかるコントローラ112の最初の動作を記述したフロー図500である。

At step 514 the processing system 310 of the controller 112 keeps a current copy 324 of the application registry 226 of each subscriber unit 122 in the wireless communication system.

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ステップ514では、コントローラ112の処理システム310は、無線通信システム内の各加入者ユニット122のアプリケーションレジストリ226の現在のコピー324を保持する。

The current copy 324 is preferably programmed into the mass medium 314 when the subscriber unit 122 is initially activated in the wireless communication system.

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現在のコピー324は好ましくは、加入者ユニット122が無線通信システム内で最初にアクティブにされると、大容量メディア314にプログラミングされる。

The current copy 324 is updated in response to communications from the subscriber unit 122 whenever the subscriber unit 122 updates its application registry 226.

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現在のコピー324は、加入者ユニット122がアプリケーションレジストリ326を更新する場合はいつでも、加入者ユニット122からの通信に応答して更新される。

In addition, the controller 112 preferably performs periodic synchronization routines, using well-known techniques to ensure that the current copies 324 of application registries remain identical to the application registries 226 in the subscriber units 122.

翻訳

更に、コントローラ112は好ましくは、周知の技術を使って周期的な同期化ルーチンを実行し、アプリケーションレジストリの現在のコピー324が加入者ユニット122のアプリケーションレジストリ226と同一となるようにする。

ここでcurrent copy 324は何かというと、アプリケーションのコピーです。処理システムあります。
ここで処理システムは、加入者ユニットのアプリケーションの現在のコピーを持っているということがわかります。アプリケーションの登録や登録抹消が行われれば、これがアプリケーションレジストリに反映され、処理システムはそのコピーを保持しているということでしょう。

クレーム12の関係ある部分の要件を抜き出してみましょう。

wherein the processing system is programmed to:
maintain an application registry comprising a list of all software applications that are currently accessible to the subscriber unit; and
in response to a change in accessibility of an application,
update the application registry; and
control the transmitter to communicate the change to the fixed portion of the wireless communication system.

翻訳

処理システムは、加入者ユニットに現在アクセス可能なすべてのソフトウエアアプリケーションのリストを有するアプリケーションレジストリを保持しており、
アプリケーションのアクセス可能性の変化に応答して、
アプリケーションレジストリを更新し、
無線通信システムの固定化された部分に対する変化の通知をするために、送信手段を制御する。

再三出てきているこの固定化された部分への通知というのがプッシュ通知と予想します。
いずれにしても、Appleのデバイスは、一つの変化でアプリケーションレジストリの更新や固定化された部分への通知の変更を生じさせるというクレーム12の要件を充たしていないということです。

今週のポイント

  • CAFCの判決にDroid 2という製品が記載されており、これはMotorolaの製品である。この製品はクレーム12の要件を充たし、これがAppleのデバイスと類似するとMotorolaは主張したのであろうが、Appleが侵害しているというためには、Motorolaの特許のクレーム12とAppleのデバイスが類似していることが必要である。
  • Droid 2はクレーム12の要件を充たしていないと判断された。クレーム12の要件は、一つのアクセス可能性の変化により、アプリケーションレジストリの更新と、固定化された部分への通知の変更が生じるということである。
  • ユーザの介入なしに、MotorolaのDroid 2のアプリケーションのアクセス可能性の変化と、アクセス可能性の変化が通知されることの関連性を立証する十分な証拠は提出されていないと判断された。
  • Droid 2のアプリケーションのインストールと削除、そしてプッシュ通知の登録と登録抹消は、Appleのデバイスと共通するが、Droid 2はクレーム12の要件とは一致しない。製品が似ていても、特許のクレームと被疑製品が同じでなければ侵害は成立しない。
  • Appleのデバイスは、一つの変化でアプリケーションレジストリの更新や固定化された部分への通知の変更を生じさせるというクレーム12の要件を充たしていないという判断である。

奥田百子

東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)

著書

  • もう知らないではすまされない著作権
  • ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
  • 特許翻訳のテクニック
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