第132回STAP細胞の話題をとうとう
この話題を是非ブログのテーマにしたいとずっと思っていました。理解が難しいため、ずっと避けてきたSTAP細胞(万能細胞)です。1月末にニュースになり、日本中どころか世界中を湧かせました。理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダの発見であり、この論文がイギリスのネイチャー誌に発表されたことにより、世界中で話題になりました。
これを本ブログのテーマとして取り上げたのは、小保方さんがこの米国に出された国際特許出願の発明者の一人として列挙されているからです。国際出願日は2013年4月24日です。ということは、国内移行の期限は、その30ヶ月後です。これこそ万能細胞の特許です。出願人は、RIKENの他、Brigham and Womens' Hospital, Inc. 東京女子医科大学)です。
発明の名称は"Generating pluripotent cells de novo"(多能性細胞を新たに作製する方法)です。多能性細胞とは?正にこれが万能細胞です。
ヒトは受精卵が分化して様々な組織や細胞がつくられていきます。一度分化した細胞は分化しない、しかし万能細胞は、一度分化して既に細胞となっているものを初期化して様々な細胞になるというものです。つまり万能細胞は簡単にいうと、いかなる細胞にも変化する細胞であり、再生医療に役立てることができます。
ノーベル賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授もiPS細胞という万能細胞を作製に成功し、これはヒトの皮膚細胞からの作製でした。しかし遺伝子に操作を加える必要があり、これに対し小保方リーダの作製は、遺伝子は操作せず、マウスのリンパ球を弱酸性の溶液に浸して短期間で容易に作成するというものでした。そして胎盤にもなるという。
方法としては、細胞にストレスをかけることにより万能細胞を作製します。ストレスをかけるというのが、弱酸性の溶液に浸すことなのでしょう。
小保方リーダの存在により、理系女子(リケジョ)にも注目が集まりました。
しかし残念なのは、この論文に不自然な画像がある、とか引用しているのに引用の表示がないとの疑惑が最近持ち上がり、現在調査中であるということです。ここでは著作権の問題が出てきます。確かに他人の論文を引用するのであれば、引用の出所表示が必要です。
世界を湧かせた万能細胞の特許、そして引用の著作権問題など、知財はやはり話題に事欠かないようです。
ではこのノーベル賞級といわれる発明の特許を読んでみましょう。私の訳付きです。
Summary
Described herein are methods of generating or producing pluripotent cells de novo, from, e.g., differentiated or adult cells. The methods described herein can further relate to increasing the pluripotency of a cell (or, e.g. decreasing the maturity of a cell), e.g. causing a multipotent cell to become pluripotent. Aspects of the technology described herein which relate to the production of pluripotent cells are based upon the inventors’ recognition that environmental stresses can induce a cell to assume a more pluripotent phenotype.
概要
栽培変種、突然変異体、雑種、新たに発見された苗(塊茎増殖された植物又は栽培されていない状態で発見された植物を除く)を含む、いずれかの顕著かつ新規な植物品種を発見、あるいは発見し、かつ無性生殖させたいずれの者も、本条の条件及び要件に従うことを条件として、上記に関する特許を受けることができる。
本明細書には、分化した細胞や大人の細胞等から新たに多能性細胞を生成又は作製する方法が記載されている。本明細書に記載の方法は更に、細胞の多能性を増加させること(例えば細胞の成熟度を減少させるなど)、例えば多能性細胞を多能性にすることに関する。多能性細胞の作製に関する本明細書に記載の技術の態様は、環境ストレスにより細胞がより多くの多能性表現型を有するという発明者の認識に基づいている。
In one aspect, described herein is a method to generate a pluripotent cell, comprising subjecting a cell to a stress. In some embodiments, the method can further comprise selecting cells exhibiting pluripotency. In some embodiments, the cell is not present as part of a tissue. In some embodiments, the stress comprises removing at least about 40% of the cytoplasm from the cell. In some embodiments, the stress comprises removing at least about 40% of the mitochondria from the cell. In some embodiments, the stress is sufficient to disrupt the cellular membrane of at least 10% of cells exposed to the stress. In some embodiments, the cell is a somatic cell, a stem cell, a progenitor cell or an embryonic cell. In some embodiments, the cell is an isolated cell. In some embodiments, the cell is present in a heterogeneous population of cells. In some embodiments, the cell is present in a homogenous population of cells. In some embodiments, selecting the cells exhibiting pluripotency comprises selecting cells expressing Oct4 or Nanog, or Oct4 and Nanog expression. In some embodiments, selecting cells exhibiting pluripotency comprises selecting cell which are not adherent.
本明細書に記載の一つの態様では、多能性細胞を作製する方法は、細胞にストレスをかけることにより構成される。ある実施形態では、当該方法は更に、多能性を示す細胞を選択することより構成される。ある実施形態では、細胞は組織の一部としては存在しない。ある実施形態では、ストレスは細胞から少なくとも約40%の細胞質を取り除くことから構成される。ある実施形態では、ストレスは、細胞から少なくとも約40%のミトコンドリアを取り除くことから構成される。ある実施形態では、ストレスは、ストレスに曝された少なくとも約10%の細胞膜を分裂させるのに十分である。…
と続いていきますが、これ以降は来週のお楽しみとしておきます。
今週のポイント
- STAP細胞(万能細胞)は、1月末に日本中どころか世界中を湧かせた。理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダの作製であり、この論文がイギリスのネイチャー誌に発表されたことにより、世界中で話題になった。
- 小保方さんがこの米国に出された国際特許出願の発明者の一人として列挙されている。国際出願日は2013年4月24日、出願人は、RIKENの他、Brigham and Womens' Hospital, Inc. 東京女子医科大学)である。
- 発明の名称は"Generating pluripotent cells de novo"(多能性細胞を新たに作製する方法)です。多能性細胞が正にこれが万能細胞である。
- ヒトは受精卵が分化して様々な組織や細胞がつくられ、一度分化した細胞は分化しない、しかし万能細胞は、一度分化して既に細胞となっているものを初期化して様々な細胞になる。つまり万能細胞は簡単にいうと、いかなる細胞にも変化する細胞であり、再生医療に役立てることができる。
- ノーベル賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授もiPS細胞という万能細胞を作製に成功し、これはヒトの皮膚細胞からの作製であった。しかし遺伝子に操作を加える必要があり、これに対し小保方リーダの作製は、遺伝子は操作せず、マウスのリンパ球を弱酸性の溶液に浸して短期間で容易に作成するというものである。そして胎盤にもなるという。
- 細胞にストレスをかけることにより万能細胞を作製する。ストレスをかけるというのが、弱酸性の溶液に浸すことであろう。
- しかし残念なのは、この論文に不自然な画像がある、とか引用しているのに引用の表示がないとの疑惑が最近持ち上がり、現在調査中である。
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
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