第134回東芝の関連会社の技術者が秘密情報を韓国企業に流出
東芝の関連会社の技術者が秘密情報を韓国企業「SKハイニックス」に流したとして逮捕されました。このニュースはかなり大きく取り上げられました。このようなことで逮捕されるとは意外に思えるかもしれませんが、不正競争防止法違反です。データを持ち出したからです。これは典型的な営業秘密の持ち出し、開示です。この技術者がコピーした技術はNAND型フラッシュメモリのデータです。
不正競争防止法では営業秘密が保護されています。そして営業秘密を不正に開示した者は不正競争行為を行ったことになります。営業秘密は企業秘密ともいわれ、米国ではトレードシークレットといわれます。
日本で営業秘密が法律で保護されるようになったのは平成5年です。それまでは営業秘密の侵害は民法の不法行為とされていましたが、差止請求ができないという問題がありました。不正競争防止法で営業秘密が保護されるようになったため、差止請求が可能となりました。
2条1項4号「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為」とあり、これに該当します。
日本の技術の韓国への流出が問題になっており、今回明るみに出たのは氷山の一角ともいわれています。東芝は元従業員とSK社に対し東京地裁に訴訟を提起しました。損害額は1000億円にも昇るとのこと。「虎の子」技術の流出ということがいわれています。虎の子とは秘蔵っ子の意味で、大切な大切な技術ということです。しかし調べてみると日本の不正競争防止法は、秘密情報の不正取得、開示は罰金の上限1000万円です。何百億、何千億という損害が生じかねない秘密情報についてこの罰金刑は安すぎるといえます。
ところで著作権は小保方さんの論文でコピペがいけないとの認識がさらに行き渡るようになりました。このようなタイミングを全く狙ったわけではないのですが、「もう知らないではすまされない著作権」(中央経済社、奥田百子監修)が本日発売されます。タイトルのとおり著作権はもう知らないではすまされません。
この本はいろいろな意味で著作権の過渡期に出版されます。本が仕上がった後に電子書籍の出版権が認められることになりました。電子書籍の海賊版を出版社が差し止める権利については、総合出版権。電子出版権など新しい権利の創設がいわれていました。そのほか従来の紙の本の出版権を電子書籍にも及ぼすという意見がありましたが、結局はこれに落ち着いたようです。
出版権(79条)は、紙の本について規定されていましたが、括弧書きで「記録媒体に記録された著作物の複製物」とあります。そしてこれを用いて公衆送信する権利、つまりインターネットで配信することに出版権を設定できるとされています。
出版社には原稿を受け取ってから6ヶ月以内に出版する義務がありますが、電子書籍の場合は、6ヶ月以内にインターネット送信する義務があることになります。
このように電子書籍に従来の出版権を及ぼすことになりました。
著作権のニュースが最近多いのもIT時代だからです。これはあまりに当たり前の話です。小保方論文のコピペも昔では考えられなかったことです。大学時代にレポートを和文タイプで打っただけで感心されたことがあります。このころは引用するといってもまず検索ができず、関連の論文は手作業で調べるしかありませんでした。
今回のこの事件をきっかけに、デジタル化時代の引用やコピペについても更に基準がつくられるとよいと思います。
ところで我が国でも音の商標や色の商標がやっとみとめられることとなりました。商標法改正案が閣議決定されました。米国では既にサウンドマーク、匂いの商標、ホログラムなどが商標として登録されており、諸外国でもこれを認めているところが多く、我が国はこの点で孤立していました。サウンドマークの例としては、McDonald's Corporationの3034331号であり2005年に登録されています。
Description of Mark(商標の記述)には
The mark is a sound mark consisting of a five tone audio progression of the notes A B C E D.
商標は、ABCEDの音符の5つの音列からなるサウンドマークである。
と記載されており、このように商標を特定します。
データの不正持ち出しの話からサウンドマークに至るまで、今日は話が色々と飛びましたが、知財の動きが活発であることだけはわかっておいてください。
今週のポイント
- 東芝の関連会社の技術者が秘密情報を韓国企業「SKハイニックス」に流したとして逮捕された。データを不正に持ち出し、開示したということで不正競争防止法違反である。この技術者がコピーした技術はNAND型フラッシュメモリのデータである。
- 不正競争防止法では営業秘密が保護されている。営業秘密は企業秘密ともいわれ、米国ではトレードシークレットといわれる。
- 日本で営業秘密が法律で保護されるようになったのは平成5年であり、それまでは営業秘密の侵害は民法の不法行為とされていたが、差止請求ができないという問題があった。不正競争防止法で営業秘密が保護されるようになったため、差止請求が可能となった。
- 不正競争防止法2条1項4号「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為」とある。
- 今回の事件で東芝は元従業員とSK社に対し東京地裁に訴訟を提起した。
- 日本の不正競争防止法は、秘密情報の不正取得、開示は罰金が上限1000万円である。何百億、何千億という損害が生じかねない秘密情報についてこの罰金刑は安すぎるといえる。
- 電子書籍の海賊版を出版社が差し止める権利については、総合出版権、電子出版権など新しい権利の創設がいわれていたが、従来の紙の本の出版権を電子書籍にも及ぼすことで落ち着いた。
- 出版権(79条)は、紙の本について規定されていたが、括弧書きで「記録媒体に記録された著作物の複製物」も規定される。そしてこれを用いてインターネット送信することに出版権を設定できるとされている。
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
- だれでも弁理士になれる本
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