第147回Glossary Pilot Program
日経BP社の知財Awareness「米国特許、出願明細書にクレーム構成の定義記載で権利範囲を明瞭化」(吉田哲の米国知財レター)(http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/etc/20140529_yoshida.html)によると、アメリカで6月から6ヶ月間(正確には、6月2日から6ヶ月、あるいはUSPTOが200件許可可能な申請を受理した時のいずれか最初に生じるまで)Glossary Pilot Programというものが開始されるそうです。
これは明細書の明確化を図ることを目的として、用語の定義を明細書中に記載するという取り組みです。この記事によるとパテントトロール対策ということで、特にソフトウエアの分野で明細書が不明確であることが多いゆえに、侵害といわれ攻撃されることがあり、用語を明確化するというものです。
このプログラムを利用するには、申請書(PTO/SB/436)を提出します。
CERTIFICATION AND PETITIONTO MAKE SPECIAL UNDER THE GLOSSARY PILOT PROGRAM
(http://www.uspto.gov/forms/sb0436.pdf)
“APPLICANT HEREBY CERTIFIES THE FOLLOWING AND PETITIONS TO PARTICIPATE IN THE GLOSSARY PILOT PROGRAM FOR THE ABOVE-IDENTIFIED APPLICATION".
「出願人は、上記出願に関して、Glossary Pilot Programに参加するための以下の申立を証明する」
という文言が記載されています。
しかし用語の定義を明細書中で行うことはこれまで行われてきたので、これでパテントトロールの有効な手立てとなるのでしょうか?
パテントトロールとは、以前にも話したように、特許侵害を行う会社を見つけては、高額の損害賠償を請求する輩です。個人の特許をもとに大企業に対し特許侵害と主張することもあります。
このプログラムではクレームの明確化がうたわれ、参加することにより、特許出願が早期審査されるというメリットがあります。
再発行出願、仮出願は対象とならず、クレームの数は4つ以下の独立クレーム、全体で30以下のクレーム数という制限があります。
審査官としては特にソフトウエアでは用語の定義が欲しい、それほど長いクレームでなければ、早期審査の対象にもする、だから用語の定義をして明細書を明確にして欲しい、という意図があるのでしょう。このプログラムに参加するのは無料であるし、クレームの用語の定義をするのであれば、この参加しても特にデメリットはないでしょう。つまり、クレームの用語の定義をしてもらうことで、特にソフトウエア分野の審査官を助けようという趣旨があるようです。しかしクレームの限定してしまうとのリスクも否めませんが、明細書を明確化するのは当然の話であり、米国特許法にも規定されているし、権利範囲を狭めることにもならないと思われるのですが・・・。
今週のポイント
- アメリカで6月から6ヶ月間(正確には、6月2日から6ヶ月、あるいはUSPTOが200件許可可能な申請を受理した時のいずれか最初に生じるまで)Glossary Pilot Programというものが開始される。
- これは明細書の明確化を図ることを目的として、用語の定義を明細書中に記載するという取り組みである。
- このプログラムは、クレームの明確化がうたわれているが、このプログラムに参加することにより、特許出願が早期審査されるというメリットがある。
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
- だれでも弁理士になれる本
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