第155回サルが自分で撮った写真の著作権者?
サルが自分で撮った自分の写真の著作権者は誰か?これがネット上で話題になっています。
これは2011年にインドネシアでサルが人間のカメラを借りて自分で撮った写真の著作権をめぐる議論です。発端は、サルが自撮りした写真が、カメラの所有者である写真家に無断でインターネット上にアップロードされ、この写真家が自分に著作権があると主張し、無断でアップされたことにより、損失を被ったと主張したのです。見込まれる利益が得られなくなったからです。撮影旅行には経費もかなりかかっているからです。写真を無断掲載したのはWikimedia財団です。
もちろん人間が自分の顔を撮れば著作権は自分にある、しかしサルは著作権を持てるのか?
日本では権利能力、つまり権利の主体となることのできる者は自然人、法人です。したがってサルは自然人ではないので著作権を持つことはできない。
Gigazineの「Wikipediaが写真の著作権はサルにある」としてカメラマンの訴えを却下」(http://gigazine.net/news/20140807-wikipedia-refuse-photo-deletion/)の記事をご覧下さい。問題の写真が見られます。
それにしてもこの写真、サルが自撮りしたものとしては上手いですね。手ぶれが全くありません。この記事によると、何百枚か撮ったうちの数枚ということですが、ほとんど奇跡です。人間が撮ってもこれほど上手く取れるかどうかというところです。サルは動いてしまうので。それだけにネット上に掲載されて話題になったのでしょう。
そして何とウィキメディア・コモンズ(http://commons.wikimedia.org/wiki/
%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8)に投稿され、皆が自由に利用できる画像となってしまったのです。ここには現時点で22,375,920本のファイルが蓄積されています。"monkey, self"とか適当に入力して検索すると、ありました。
Macaca.nigra.self-portrait(rotated and cropped). jpg(http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Macaca_nigra_self-portrait_%28rotated_and_cropped%29.jpg?uselang=ja)です。
つまりサルが自撮りした写真はカメラの所有者である写真家にはない、あえて言えばサルに著作権がある、しかしサルは著作権者にはなれないから、この写真は公有(public domain)であるという論法です。
しかし人間が構図を考え、サルをその気にさせて完全にお膳立てして、サルがシャッターを押しただけ、という状況であれば、その人間に著作権を認めてもよいでしょう。しかし記事を読むと、これはそういう状況ではなさそうです。サルたちがおもしろがってポーズまでとって写真を撮った、つまりサルが完全にカメラマンの役割も果たしたのであるから、著作権者は敢えて言えばサルである、ということです。今回はたまたまサルが撮ったから公有になりましたが、ネットが発達し、ウィキメディア・コモンズのようなサイトが存在する今日、人間が著作者であっても、すばらしい著作物、奇跡の著作はもはや一人に独占させることができない方向に今後は動くのでしょうか?
今週のポイント
- 2011年にインドネシアでサルが人間のカメラを借りて自分で撮った写真の著作権をめぐって争いが起こった。
- 発端は、サルが自撮りした写真が、カメラの所有者である写真家に無断でインターネット上にアップロードされたことである。この写真家が自分に著作権があると主張し、無断でアップされたことにより、損失を被ったと主張した。写真を無断掲載したのはWikimedia財団である。
- サルが自撮りした写真の著作権はカメラの所有者である写真家にはない、あえて言えばサルに著作権がある、しかしサルは著作権者にはなれないから、この写真は公有(public domain)となった。ウィキメディア・コモンズにも掲載されている。
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
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