第160回エアバスの飛行機シートの発明
エアバスの発明は以前にも、バーチャルな操縦画面を持つコックピットの発明をこのブログで紹介したことがあります(https://www.interbooks.co.jp/column/10minutes/20140710/)。
エアバスの別の発明がある記事に紹介されていました。
WIREDの「飛行機の「立ち乗り」シート、エアバスが特許申請」(http://wired.jp/2014/07/19/airbus-seat-patent/)をご覧ください。
客室のシートをサドルにするというのです。しかし快適さはどうなのでしょう。
そもそも発明の名称はというと、
“Seating device comprising a forward-foldable backrest"
「前方方向に折りたためる背もたれを備えたシート装置」
です(US 2014-159444)。
Abstractの一部は、
“A seating device with reduced bulk, for example for an aircraft. This seating device comprises a backrest which describes a circular translational movement towards the front and upwards of the device when the seating device is brought to the retracted configuration.".
「例えば飛行機で容積が低減されたシートである。このシート装置は、シート装置が後退する配置になる際に、装置の前方および上方に向かって、回転並進する動きを描く背もたれを備えている。」
「for example」の表現からこれは飛行機に限ったシートではないようです。しかしエアバスの発明であることや、飛行機が例として挙がっていること、明細書でエコノミークラスを想定していることから、主に飛行機のシートでしょう。背もたれの回転並進とは?明細書の該当箇所は、
“More specifically, the backrest 18 describes a circular translational movement TC towards the front F and upwards U of the device 10 when the seating device 10 is brought to the retracted configuration".
背もたれ18は、シート装置10が後退する配置になる際、装置10の前方Fおよび上方Uに向かって、回転並進の動きTCを描く。
[0052] "Circular translation" should be understood to mean that the invention intends the backrest 18 to describe a planar movement such that all the points of the backrest 18 have circular trajectories of the same radius but of different centers.
「回転並進」とは、背もたれ18のすべての点が、中心は異なるが同一半径の円軌道を有するように、背もたれ18が平面の動きを描くことを本発明が意図している、と理解されるべきである。
This circular translational movement makes it possible to maintain the backrest 18 in the same substantially vertical position regardless of the configuration assumed by the device 10.
回転並進運動により、装置10が想定する構成に関わらず、背もたれ18は、ほぼ同一の垂直位置に保たれる。
Preferably, the backrest 18 describes a circular translational movement TC in a median plane PM of the device 10, the median plane PM separating the device 10 into two halves, right and left.
好ましくは、背もたれ18は、装置10の正中面PMに回転並進運動TCを描く。正中面PMは、装置10を右と左に二等分する。
[0057] By virtue of this particular movement TC, the backrest 18 is located substantially in the vertical extension of the support 14, which reduces the bulk E of the device in the retracted position.
この特別の動きTCにより、背もたれ18は、支持機構14のほぼ垂直延長方向に配置され、後退位置で装置の容量Eを低減できる。
[0010] According to a second solution aiming to increase the number of cabin seats, it is possible to reduce the distance available between two seats, that is to say the distance needed for the legs of the passenger.
2つのシート間の許容される距離を低減でき、乗客の足に必要な距離を低減できる。
関連箇所を読んできましたが、要するに前後のシート間で乗客の足を置くのに必要な場所を少なくすることのできる飛行機のシートです。これは、背もたれが垂直方向に動くため、シートを後退させてもスペースをとらないからです。この記事のタイトルにもあるようにほぼ「立ち乗り」状態になることもあるようです。
しかし離陸や着陸時の安全について明細書では触れているのでしょうか?今後もこの明細書を見ていきたいです。
ところで"describe"の用語が頻繁に使われています。これは動きを「描く」の意味で使われています。
今週のポイント
- エアバスの飛行機シートの特許出願が公開された。前後のシート間で乗客の足を置くのに必要な場所を低減できる飛行機のシートである。これは、背もたれが垂直方向に運動するため、シートを後退させてもスペースをとらないからである。
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
- だれでも弁理士になれる本
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