第164回中村裁判その2
ノーベル賞の中村修二氏の発明の明細書を読んでいますが、これを読むとニュースの用語がよくわかります。ツーフロー方法は、基板表面にガスを二方向から供給することです。前回も話したように、基板上で半導体結晶膜を成長させるために、基板に垂直な方向、そして平行な方向、傾斜した方向の2方向からガスを噴射します。ツーフローとはこのことをいっています。
ここで成長させる結晶膜はGaN(窒化ガリウム)膜です。これは青色発光ダイオードの材料となります。この良好な結晶膜を基板上成長させるのが中村氏の発明です。
日本の特許は2628404号ですが、パテントファミリーがあり、アメリカの関連特許は5334277号です。
中村氏の発明の特徴は、二方向からガスを供給するということだけではありません。垂直および平行の二方向からの反応ガスの供給は先行技術として存在していました。
垂直方向から押圧ガスとして反応ガスを含まない不活性ガス、そして水平および傾斜方向から反応ガスを供給し、押圧ガスにより水平および傾斜方向の反応ガスを吹き付ける方向に変化させるという点が特徴です。つまりガスの種類そして、水平、傾斜した方向のガスを吹き付ける方向に変化させる点が中村氏の発明の特徴であり、単なる二方向の意味ではありません。
中村裁判での争点は前回も言いましたが、この発明が職務発明であるかどうか、職務発明でなければ、予約承継はできないから、会社には権利は移転されていない、したがって持分を移転せよ、そして会社がこの発明を利用して得た利益は不当利得であり、1億円を返還せよ、職務発明である場合は、相当の対価がどの程度か、ということで中村氏は権利の持分移転と1億円、移転が無理であれば200億円を対価として求めました。
職務発明ではないと主張する根拠は、青色発光ダイオードの研究を中止して、別の研究をするように命じられたにもかかわらず、これに反して発明したのであるから、職務発明ではない自由発明である、ということでした。
しかし勤務時間中に会社の設備を使い、従業員の労力を借りて行った発明であるから、やはり職務発明であるとの認定でした。
しかも日亜化学には昭和60年に改正された社規第17号というものがあり、従業員の発明、考案は会社が出願する旨が規定されており、中村氏はこの内容を知っていた、会社の出願にも異議を述べていなかった、また出願依頼書には「下記の発明又は考案について,特許又は実用新案登録を受ける権利の持分の全部を日亜化学工業株式会社に譲渡したことに相違ありません。」という文言が印刷されており、中村氏は鉛筆書きとは言え、これに署名している、報奨金も受け取っているなどの事実が考慮され、発明は会社のものであるとされました。
現在、特許法35条を改正して、職務発明を企業に帰属させるという改正の動きがあります。中村裁判を契機に、企業にはいつ巨額の請求を従業員からなされるかわからない、という不安があります。中村裁判は日本の特許業界、そして産業界に大きな影響を与えましたが、今回のノーベル賞受賞もまた別の意味で大きな影響を与えました。
今週のポイント
- ツーフロー方法は、基板表面にガスを二方向から噴射することある。基板上で半導体結晶膜を成長させるために、基板に垂直な方向、そして平行な方向、傾斜した方向の2方向からガスを供給する。ツーフローとはこのことをいっているが、中村氏の発明にはさらに以下の特徴がある。
- 垂直方向から押圧ガスとして反応ガスを含まない不活性ガス、そして水平および傾斜方向から反応ガスを供給し、押圧ガスにより水平および傾斜方向の反応ガスを吹き付ける方向に変化させるという点が特徴である。
- ガスの種類そして、水平、傾斜した方向の反応ガスを吹き付ける方向に変化させる点が中村氏の発明の特徴であり、単なる二方向の意味ではない。
- 中村裁判の争点は、この発明が職務発明であるかどうか、職務発明でなければ、予約承継はされてないから、会社には権利は移転されていない、したがって権利の持分移転と、会社がこの発明を利用して得た利益は不当利得であり、1億円の返還請求を行い、職務発明である場合は、相当の対価がどの程度か、ということで中村氏は権利の持分移転と1億円、移転が無理であれば200億円を対価として求めている。
- 職務発明ではないと主張する根拠は、青色発光ダイオードの研究を中止して、別の研究をするように命じられたにもかかわらず、これに反して発明したのであるから、職務発明ではない自由発明である、ということである。
- しかし勤務時間中に会社の設備を使い、従業員の労力を借りて行った発明であるから、やはり職務発明であるとの東京地裁の認定であった。
- しかも日亜化学には昭和60年に改正された社規第17号というものがあり、従業員の発明、考案は会社が出願する旨が規定されており、中村氏はこの内容を知っていた、会社の出願にも異議を述べていなかった、また出願依頼書には「下記の発明又は考案について、特許又は実用新案登録を受ける権利の持分の全部を日亜化学工業株式会社に譲渡したことに相違ありません。」という文言が印刷されており、中村氏は鉛筆書きとは言え、これに署名している、報奨金も受け取っているなどの事実が考慮され、発明は会社のものであるとされた。
- 現在、特許法35条を改正して、職務発明を原則は企業に帰属させるという改正の動きがある。
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
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