第171回「DIGITAL WARS」(Charles Arthur著)という本
「DIGITAL WARS」(Charles Arthur著、Kogan Page Ltd.発行, 2nd Eidition)という洋書を今読んでいます。Apple, Microsoft, Google、スマホをめぐるデジタル戦争が書かれています。
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Digital Wars: Apple, Google, Microsoft and the Battle for the Internet
Steve Jobsの死後3年が経過しますが、彼の偉業は未だ語り尽くされてはいません。何年たっても忘れ去ることのできない人です。
この本はニューヨークのライター、Ken Auletta氏が1998年にBill Gatesをインタビューに訪れたところから始まりますが、話題はJobsに移り、経営手腕、交渉スキルなどが事細かに記載されており、かなり思い切って合理化を行う人であったことがわかります。
またJobsとBill Gatesは長年の良き親友だったようです。彼らはダブルデートの逸話も書かれています。
この本では、Microsoftを“800-pound gorilla of software"と表現しています。800ポンドのゴリラとは、とにかく巨大のものをいいます。日本では聴き慣れませんが、アメリカではよく使うようです。1990年代後半にビジネスを立ち上げる場合には、Microsoftに買収されるか、これをうまくかわして会社を操業することが目的となっており、それくらいMicrosoftは小さい競合会社をつぶしてしまう企業であったとのことです。 そしてとうとうMicrosoftはテクノロジーの世界では、Evil Empireと呼ばれました。そしてMicrosoftはとうとうAppleを凌ぐ存在となりました。
特許の話も出てきます。たとえばiPhoneが販売されるとすぐ、NOKIAが特許侵害訴訟を提起したことです。この訴訟が提起されたのは2009年ですが、iPhoneが最初に発売されたのは2007年です。
しかしこのようにデジタル戦争が盛んであったにもかかわらず、アメリカの特許業界が陰りを見せたのはなぜでしょう。2011年にアメリカ特許法が改正されるころには、アメリカ特許は沈滞ムードにあり、2011年改正は特許業界再生の希望の星となっていました。
一つにはパテントトロールの存在があります。デジタル戦争が盛んゆえに、かえって勢いの良い会社の特許をつぶそうとするパテントトロールが出てきたのです。訴訟合戦や買収が盛んだからといって、特許業界によいことばかりではありません。
またデジタル戦争は活発でも、アメリカの特許訴訟ではほとんどが和解になっているという現実は、発明を重んじてとことん戦う、アメリカ人の気質にはそぐわない印象を受けます。最終的に和解するのであれば、なぜ最初から高額の訴訟費用をかけて提訴するのでしょうか?今のアメリカの特許訴訟では、訴訟は和解に至るひとつの通過点にすぎないように思われます。最初からライセンス交渉をしないのはなぜでしょうか?
デジタル戦争といってもその特許については本当の戦争をしていないように思われます。
今週のポイント
- 「DIGITAL WARS」(Charles Arthur著、Kogan Page Ltd.発行, 2nd Eidition)という洋書がある。Apple, Microsoft, Google、スマホをめぐるデジタル戦争が書かれている。
- Steve Jobsの死後3年が経過するが、彼の偉業は伝説は未だ語り尽くされてはいない。この本はニューヨークのライター、Ken Auletta氏が1998年にBill Gatesをインタビューに訪れたところから始まるが、話題はJobsに移り、経営手腕、交渉スキルなどが事細かに記載されており、かなり思い切って合理化を行う人であったことが伺える。
- この本では、Microsoftを“800-pound gorilla of software"と表現している。800ポンドのゴリラとは、とにかく巨大なものをいう。日本では聴き慣れないが、アメリカではよく使う表現である。
- デジタル戦争が盛んであったにもかかわらず、2011年にアメリカ特許法が改正されるころには、アメリカ特許業界は沈滞ムードにあり、2011年改正は特許業界再生の希望の星となっていた。
- その要因の一つにはパテントトロールの存在がある。デジタル戦争が盛んゆえに、かえって勢いの良い会社の特許をつぶそうとするパテントトロールが到来した。訴訟合戦や買収が盛んだからといって、特許業界によいことばかりではない。
- デジタル戦争は活発でも、アメリカの特許訴訟ではそのほとんどが和解になっているという現実は、発明を重んじてとことん戦う、アメリカ人の気質にはそぐわない印象を受ける。最終的に和解するのであれば、なぜ最初から高額の訴訟費用をかけて提訴するのか?今のアメリカの特許訴訟では、訴訟は和解に至るひとつの通過点にすぎないように思われる。最初からライセンス交渉をしないのはなぜか?
- デジタル戦争といってもその特許については本当の戦争をしていない。
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
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