第172回ノーベルウィークが始まりました
ノーベルウィークが始まりました。ノーベル賞の授賞式は12月10日に行われますが、それに向けて様々な式典やスピーチが行われています。
その時期を全く狙ったわけではないのですが、たまたま今週の金曜12月12日に私の「中村教授の功績を題材にした特許翻訳セミナー」が開催されます(日本翻訳協会主催)。
http://www.jta-net.or.jp/seminar.html
自分でも驚いているのですが、このセミナーの日程を選んだのは10月で、12月だったら仕事が一段落しそうだと思っただけです。
セミナーの内容は中村修二教授のアメリカ特許(5334277号)の英文明細書を説明します。これは、404号特許(正式には2628404号)という日本特許のアメリカ対応特許ですが、半導体結晶の成長方法です。つまり青色発光ダイオードそのものではなく、その原料になる窒化ガリウムの結晶膜の成長方法です。
そもそも今回のノーベル賞の受賞理由は何か?青色発光ダイオードそのもの思っている人も多いでしょうが、これらの特許を見る限りでは青色発光ダイオードの製造に関する発明です。端的に言うと、この特許がノーベル賞を受けたのか、ということが知りたいです。中村氏が日亜化学と発明の対価をめぐって争った10年前には、404号特許がもとになりました。今回の受賞理由はこの特許でしょうか?3人同時受賞の理由は?
そんなとき、exice. ニュースの以下の記事に出会いました。
「政財界が手放しで喜べぬ中村修二教授のノーベル物理学賞受賞」
(http://www.excite.co.jp/News/economy_g/20141106/Keizaikai_13657.html)
やはり中村氏の貢献は、半導体結晶膜の成長です。それにしてもこの特許は読みやすい明細書です。ノーベル賞のことがなくても、このアメリカ明細書は特許翻訳の教材として十分に利用したい明細書です。たとえば実施例1ではGaN(窒化ガリウム)の成長方法について、以下のように工程がかかれています。明細書の実施例を読むことでノーベル賞を垣間見れる!
セミナーはいよいよ今週金曜です。
アメリカ特許5334277号の実施例1を訳しました。
EXAMPLE 1
GaN was grown on a sapphire substrate by the following steps.
(窒化ガリウムは、以下のステップでサファイヤ基板の上で成長した)
1 A washed sapphire substrate 1 (C face) having a diameter of 2 inches was placed on the susceptor 4.
1 直径2インチの洗浄したサファイヤ基板1(C面)をサセプタ4の上に置いた。
2 Air in the stainless steel chamber 6 was exhausted by the exhaust pump and replaced by H2.
2 ステンレススチールのチャンバ6内の空気が、排気ポンプにより排気され、H2で置き換えられた。
3 Thereafter, the susceptor 4 was heated up to 1,150 degrees, while H2 gas was supplied from the reaction gas blow tube 2 having an inner diameter of about 10 mm and the sub blow tube 3 having a maximum diameter of about 60 mm.
3 その後、サセプタ4が1,150°まで加熱され、一方でH2は、内径約10mmの反応ガスブローチューブ2及び最大径約60mmの副ブローチューブ3から供給された。
4 This state was maintained for 10 minutes to remove an oxide film on the surface of the sapphire substrate.
4 この状態が10分間維持され、サファイヤ基板の表面上の酸化膜が除去された。
5 The reaction temperature of the substrate was decreased to 1,000 degree, and the substrate was left to stand until the temperature was stabilized.
5 基板の反応温度は、1,000°まで減少し、基板は温度が安定するまでその状態としておいた。
6 Subsequently, hydrogen and nitrogen gases were supplied from the sub blow tube 3 in the upper portion of the chamber 6, and ammonia gas and hydrogen gas were supplied from the horizontal reaction gas blow tube 2.
6 次に水素と窒素ガスが、チャンバ6の上部分の副ブローチューブ3から供給され、アンモニアガス及び水素ガスが水平な反応ガスブローチューブ2から供給された。
The flow rate of both of the hydrogen and nitrogen gases supplied from the sub blow tube 3 into the chamber was adjusted to be 5 l/min.
副ブローチューブ3からチャンバに供給された水素及び窒素ガス双方の流量は、5 l/minに調整された。
The flow rates of the ammonia gas and the hydrogen gas blown from the reaction gas blow tube 2 were adjusted to be 5 l/min and 1 l/min, respectively. This state was maintained until the temperature was stabilized.
反応ガスチューブ2から噴射されたアンモニアガスと水素ガスの流量は、5 l/min及び1 l/minに各々調整された。この状態は、温度が安定するまで維持された。
7 Thereafter, TMG gas was blown from the reaction gas blow tube 2 in addition to the ammonia gas and the hydrogen gas. The flow rate of the TMG gas was 5.4 × 10-5 mol/min. Vapor-growth was started in this state and continued for 60 minutes. In this vapor-growth step, the susceptor 4 was rotated at 5 rpm.
7その後、アンモニアガス及び水素ガスに加え、TMGガスが反応ガスブローチューブ2から噴射された。TMGガスの流量は、5.4 × 10-5 mol/minであった。気相成長はこの状態で開始し、60分間続いた。この気相成長のステップでは、サセプタ4は5rpm(回/秒)回転した。
今週のポイント
- ノーベルウィークが始まり、ノーベル賞の授賞式は12月10日に行われるが、それに向けて様々な式典やスピーチが行われている。
その時期を全く狙ったわけではないが、たまたま今週の金曜12月12日に奥田百子の「中村教授の功績を題材にした特許翻訳セミナー」が開催される(日本翻訳協会主催)。 - このセミナーでは、中村修二教授のアメリカ特許(5334277号)の英文明細書を説明する。これは、404号特許(正式には2628404号)という日本特許のアメリカ対応特許であるが、半導体結晶の成長方法である。つまり青色発光ダイオードそのものではなく、その原料になる窒化ガリウムの結晶膜の成長方法である。
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
- だれでも弁理士になれる本
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