第180回小保方さんのニュースが再び報道されています
小保方さんのニュースが再び報道されていますが、肝心の特許はどうなったのでしょう。
“GENERATING PLURIPOTENT CELLS DE NOVO"(筆者訳:多能性細胞を新たに作成するステップ)
(WO2013/16296)という国際出願です。小保方さんが発明者の一人になっていますが、この国内移行期限は2014年10/24でした。
WIPOウエブサイトで検索すると、オーストラリアに2014年10/17に国内移行されています。しかし日本その他の国への国内以降の表示はありません。
なぜオーストラリアなのか?
オーストラリアが重要な拠点なのか、いずれにしてもこの出願を失効させたくなかったため、国内移行したのでしょう。
これはアメリカにされた国際出願です。明細書冒頭にはこんな文章があります。
This application claims benefit under 35 U.S. C. § 119(e) of U.S. Provisional Application Nos. 61/637,631 filed April 24, 2012 and 61/779,533 filed March 13th, 2013, the contents of which are incorporated herein by reference in their entirety.
これは明細書ではお決まりの文句ですね。つまりアメリカに2012年4/24仮出願され、これを全体として組み込んでいるという趣旨の文章です。
つまりアメリカにされた仮出願をもとに優先権主張しています。仮出願も本出願をすれば優先権主張の基礎とすることができます。
明細書にこんな文章があります。
“Described herein are methods of generating or producing pluripotent cells de novo, from, e.g., differentiated or adult cells".
“pluripotent cells" 多能性細胞
多能性細胞が、問題になった万能細胞です。どんな細胞にでもなれる細胞です。
“de novo"(ラテン語)新たに
このように英語の文章にラテン語のフレーズが入り込むことがあります。
“differentiated cell" 分化細胞
“differentiate"を分化するという意味で使っています。分化とは生物の細胞や組織が変化していくことです。
“adult cell" 成熟細胞
ヒトは受精卵の分化により組織や細胞がつくられ、一旦分化した細胞は分化しませんが、万能細胞は、一旦分化して細胞となっているものが様々な細胞になるというものです。つまり万能細胞は簡単にいうと、いかなる細胞にも変化できる細胞です。当然、再生医療に役立てることができます。
この発明は、分化細胞や成熟細胞から多能性細胞をつくるというものです。
今週のポイント
- 小保方さんのニュースが再び報道されているが、肝心の特許は、というと、“GENERATING PLURIPOTENT CELLS DE NOVO"(WO2013/16296)という国際出願があり、小保方さんが発明者の一人になっている。この国内移行期限は2014年10/24であった。 WIPOウエブサイトで検索すると、オーストラリアに2014年10/17に国内移行されている。しかし日本その他の国への国内以降の表示はない。 オーストラリアが重要な拠点なのか、いずれにしてもこの出願を失効させたくなかったため、国内移行したのであろう。
- “Described herein are methods of generating or producing pluripotent cells de novo, from, e.g., differentiated or adult cells". という文章がSummary of Invention(発明の概要)にあり、分化細胞や成熟細胞から多能性細胞を作成する発明であることがわかる。
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
- だれでも弁理士になれる本
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