第201回エスカレーターとエレベーター
ずいぶん前になりますが、2011年7月5日、北京の地下鉄の北京動物園駅でエスカレーターが逆走する事故がありました。
上りのエスカレーターに乗っていたはずなのに、急に下に向かって動き出し、バランスを崩した多くの人が怪我をし、死亡者も出たとか。
恐ろしいですね。伊藤の場合、エスカレーターは、その上にじっと立っているものではなく、ドンドン歩いて行くものです(セッカチですね…笑)。そういう人は同じような事故に遭遇したら、真っ先に怪我をするクチですから、気をつけねば、と思いました。
さて、この事故に関する様々な記事をインターネットで見ていた時、不思議なことに気づいたのですが、その話をする前に、そもそも、エスカレーターって中国語で何と言うかご存知でしょうか?
そう。ふつうは「自动扶梯 zì dòng fú tī」とか「电动扶梯 diàn dòng fú tī」とか、あるいは単に「扶梯 fú tī」と言いますよね?
だから、この事故のことを
北京地铁扶梯事故
běi jīng dì tiě fú tī shì gù
北京地下鉄エスカレーター事故
というふうに言っているのは当然理解できるわけですが、時々こんなふうに言っているメディアもあるようでした。つまり:
北京地铁电梯事故
běi jīng dì tiě diàn tī shì gù
そう。「扶梯」のところが「电梯」となっているのです。
「电梯 diàn tī」ってご存知でしょうか?これは、僕の頭の中では「エレベーター」のこと、ということになっています(笑)。
そういえば、伊藤も含めて多くの日本人が「エスカレーター」と「エレベーター」を言い間違えることがあります。皆さんもきっとご経験がおありでしょう?だから、きっと中国人たちも「扶梯」とするところを「电梯」と書いてしまったのだろうなと、軽く考えていたのですが、、、
先日中国人の友達にちょっと尋ねてみました。すると、意外な答えが。。。
彼女曰く:
私の語感では、「扶梯」は「电梯」の一種です。
なるほど、そうか!電気で動く昇降機は全部「电梯」なんですね!
そういえば、「扶梯」を辞書で調べても、「手すりつきの階段」としか書いていない場合も多いようです。だから正しくは「自动扶梯」や「电动扶梯」と言うべきところを、長いから「扶梯」としか言わないことが多くなったのでしょうね。そして同じように「电动扶梯」の省略形として「电梯」という言い方もあるということなのでしょう。
なんとなく伊藤は、エスカレーターを「扶梯」、エレベーターを「电梯」と言い分けているような気がしていたのですが、実際には両者の間にはっきりした区別は無いということのようです。
そういえば、字の意味から考えても、「扶梯」の「扶」は「(つり革、手すり等に)つかまる」という意味があるので、「扶梯」という言葉自体は「手すりつきの階段」というような意味でしかありません。「電動の」とか「自動の」というようなニュアンスは、この2文字からは全く感じられません。
それに対して「电梯」には「电」という字がついているので、いかにも電気を使いそうです(笑)。そして「梯」は「階段のようなもの」という意味があります。つまり「电梯」「电动扶梯」とは、直訳すると「電気で動く、手すりつきの階段」というような意味なのです。
だったら「电梯」は、字の意味からいえばむしろ「エスカレーター」に近いと言ってもいいくらいですよね。
僕の中では、エスカレーターとエレベーターは全く別物だったので、「扶梯」は「电梯」の一種だとする中国の考え方は新鮮でした。
言語が違えば、モノの区別の仕方も違うのですね。そういえば、フランス語では「チョウチョ」も「ガ」も、どちらも「パピヨン(papillon)」というらしいです。区別したい時は「papillon de jour(昼のパピヨン、つまり、チョウチョ)」「papillon de nuit(夜のパピヨン、つまり、ガ)」というような言い方をするそうです。
他にも色々あるでしょうね。また探して皆さんにご紹介しようと思います。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本