第207回聞き取ってもらえない
先日、ある中国語の授業で使っているテキストに、こんな会話が出ていました。日本人が北京でタクシーに乗ろうとしている場面です。Aさんが日本人、Bさんがタクシーの運転手です。
A:我想到天坛。wŏ xiăng dào tiān tán
私は天壇に行きたいのですが。
B:你去那儿做什么? nĭ qù nàr zuò shén me
あなたはそこへ何をしに行くのですか?
A:我去参观参观。wŏ qù cān guān cān guān
わたしはちょっと見学しに行くのですよ。
B:怎么去啊? zěn me qù a
どうやって行くのですか?
A:你怎么不知道? nĭ zěn me bù zhī dào
あなたはなぜ知らないのですか?
・・・とまぁ、こんなふうにすれ違った会話がなされているのですが、実はこの日本人が発音を間違えていたというオチがあるのです。どう間違っていたかというと、この日本人は「天坛 tiān tán」というところ(北京の観光名所の1つ)に行きたかったのですが、「坛 tán」の発音が「táng」となっていたようなのです。つまり、タクシーの運転手には
天堂 tiān táng (天国のこと)
と聞こえていた、、、というオチですね(苦笑)。
なるほど、行き先が天国なら、行き方が分からないというのもうなずけますが。。。
でもちょっとこの運転手、意地悪ですよね~(笑)。そのくらい、わかってやれよ~って思います。
確かに、我々日本人にとって、[-n]と[-ng]の違いって発音しにくいし、聞き取りにくいですよね。しかし北京の人からすると全然違う音に聞こえているのでしょうから、上記のようなことがあるのかもしれません。でも、文脈から読み取ってくれよ~って思いますけどね~。
ただ、ちょっとしたことで聞き取ってもらえないことって、意外とあるものです。
日本語の話ですが、伊藤の実家近くには「中野(なかの)」という地名があります。ここを僕たち現地人は「な」を高く発音し、「か」と「の」は低く発音しています。
しかし、ご存知の通り、東京にも「中野」という地名がありますよね。こちらは「な」は低く発音し「か」と「の」は高く発音します。丁度僕たちの「中野」と正反対のイントネーション。
ある時、東京在住の友達が「大学生のころ、バイトで伊藤さんの故郷の街に行ったよ~。そこにナカノっていう地名があったからビックリしたよ~。」と言ってくれたのですが、彼は「な」を低く、「か」と「の」を高く発音した(つまり東京の「中野」のイントネーションで発音した)ので、僕は「え?そんな地名、ないよ。どこかと間違っているんじゃないの?」と答えました。
でもその後、イントネーションが違ったから分からなかったのだと悟りました。
東京の「中野」とうちの近くの「中野」、漢字で書いても同じ「中野」、平仮名で書いても同じ「なかの」です。全く同じ地名ですよね。なのに、イントネーションが違うだけで僕には全く違う地名に聞こえていたのです。我ながら不思議でしたね~。
ですから、「tiān táng」と言われて「天坛(天壇)」が思いつかなくても、仕方ないのかもしれません。
これを防ぐためには、もちろん自分の発音を磨くことも必要ですが、もっと周辺情報を入れて相手に伝えることが有効だと思います。例えば、「天壇」に行きたいのなら、ここは公園になっているので、
天坛公园 tiān tán gōng yuán
と言ってみるとか。
さすがに「天坛公园 tiān tán gōng yuán」と言われれば、たとえ発音が少々悪くても「天国公園かい?そんなところいけないね。」と突っぱねる運転手はいないでしょう(笑)。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本