第221回漢字の意味
先日仕事で扱っていた中国語の文書にこんな言葉が出てきました。
不速之客
bú sù zhī kè
これはどういう意味だかご存知ですか?
そう、ふつう「招かれざる客」と訳していますね。
しかし、漢字を見る限りでは「速くない客」としか読めず、どうしてこれが「招かれざる客」という意味になるのだろうと、なんだか不思議です。
でも、実は「速」という字には、「招く」という意味があるのです!
日本の「速」という字には「招く」という意味は伝わっていないようですし、現代中国語でも「招く」という意味はあまり感じられませんが、時々こういう古くからある言い回しの中に古い意味を持つ漢字が含まれていることがあるのですね〜。
日本語の四字熟語などを見ていても「この漢字はどうしてここに入っているんだろう」と思うことがあります。ちょっと見てみましょう。
一日千秋(イチジツセンシュウ)
中国語では「一日三秋 yí rì sān qiū」
「1日会わないと1000年も会わなかったように、とても待ち遠しいこと」という意味です。
「1日に千の秋」……なんだかピンと来ないかもしれませんが、実は「秋」という漢字には「年」という意味があるのですね!日本語でも中国語でも、ふつう「年」という字の代わりに「秋」という字を使うようなことはできません。「一日千秋」のように四字熟語などの中でしか見られなくなっていますが、「秋」に「年」という意味があることを知っておけば、なるほど〜と思うことも出てくるかもしれませんので、覚えておいてください。
曲学阿世(キョクガクアセイ)
中国語でも「曲学阿世 qū xué ē shì」
「真理にそむく不正の学問を以って世の中におもねること」というような意味ですね。「曲」は「曲がっている、公正でない」というような意味なのは想像がつきますが、「阿」が分かりにくそうです。
実は「阿」という漢字の訓読みは「おもね(る)」です。つまりこの「阿」という漢字には「おもねる、こびる」というような意味があるのです。ですから「阿世」とは「世の中にこびへつらう」というような意味になるのですね!
中国語では、「おもねる」というような意味でこの漢字を使う場合、発音が「ē」となります(例えば「阿谀奉承 ē yú fēng chéng こびへつらう」)。それ以外ではこの字は「ā」と読むことがほとんどなので、少し注意が必要ですね。
ただ、「阿弥陀佛 ē mí tuó fó」の「阿」も「ē」と読みますが、これは別に「おもねる、こびる」という意味ではありません(笑)。
万古不易(バンコフエキ)
中国語でも「万古不易 wàn gŭ bú yì」もしくは「万古不变 wàn gŭ bú biàn」
「いつまでも変わらない」という意味です。「万古」は「永久に、永遠に」というような意味がありますね。問題は「不易」です。
「易」という字、日本語なら「やさしい、簡単だ」という意味しか思いつきませんが、実は「改める」とか「交換する」という意味があります。つまり「不易」とは「改変しない、(別のものと)取り替えない」というような意味になり、要するに「変わらない」「不変だ」というような意味になるのです。
「易」という字に「交換する」という意味があることは、日本語のほかの単語にも現れています。たとえば「貿易」「交易」。
小さい頃から僕は「貿易」って何が簡単なのだろうなんて漠然と不思議に思いつつ、あまり深く考えないでスルーした覚えがあります(笑)。実は「交換する」というような意味だったのですねー。
漢字一つひとつの意味を色々調べてみると、おもしろい発見があったりします。皆さんも何か発見があれば僕にも教えてくださいね。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本