第227回使役は命令
ある中国語テキストにこういう表現が出てきました。
母亲不让我看电视。
mŭ qin bú ràng wŏ kàn diàn shì
(直訳)お母さんは私にテレビを見させない。
そう、使役の文の否定文ですね。
使役の文を否定する時って、使役動詞の前に「不」を置くって習いますよね?僕もそう習ったような気がしますし、自分もそう教えています。
ところが、そうではない文を発見してしまったのです(ちょっと大げさですかね…笑)。
僕はNHK国際放送局の中国語放送にも関わっているのですが、ある番組の中で、こんな文が出てきました。
掌柜的让他不要告诉老板娘真情。
zhăng guì de ràng tā bú yào gào su lăo băn niáng zhēn qíng
旦那様は彼に、おかみさんに本当のことを言わないように言った。
「掌柜的(旦那様)」とか「老板娘(おかみさん)」とか、ちょっと最近使わないような語彙が出てくるので読みにくいかと思いますが、注目してほしいのは否定の言葉「不」が使役動詞「让」より後ろに入っているということです。
上でも書いたように、使役の文を否定する時(〜させない、〜しないように言う)、ふつうは使役動詞の前に「不」を置く、と僕たちは習っているわけです。だから、この表現を見て僕の頭の上にはいくつもクエスチョンマークが飛び交いました(笑)。
で、収録が終わってから早速キャスターの人に尋ねてみました。この文ってこれでいいのですか?「不」を「让」の前に持っていく「掌柜的不让他告诉老板娘真情。」という言い方とはどう違うのですか?と。
すると、キャスターは、しばらく考えた後、どっちでも大丈夫と答えてくれました。但し、「让」の後に「不」を入れる場合は、「不要」(もしくは「别 bié」)としなければならないそうです。
ただ、ちょっとニュアンスが違うようにも感じるらしく、次のような例文でニュアンスの違いを教えてくれました。
让他吃
ràng tā chī
彼に食べさせる
この簡単な文で考えてみます。この文を普通に否定すると、
不让他吃。
bú ràng tā chī
彼に食べさせない。
「不」を「让」の後ろに持っていくと
让他不要吃。(もしくは让他别吃。)
ràng tā bú yào chī(ràng tā bié chī)
彼に食べさせない。
同じことのように聞こえますが、前者は話者の気持ちとして「食べさせない」と言っているのに対し、後者は何か客観的な理由があって(例えばモノが腐っているからとか)「食べさせない」ということのようです。少し言葉を補って訳すと…
前者は「彼に食べさせたくない」
後者は「彼に食べさせられない」
という感じでしょうか。
ですから、最初に書いた例文「母亲不让我看电视。」だったら、「お母さんは僕にテレビを見せたくないんだ。」というニュアンスになるのかもしれませんね。このセリフは子供の言葉なのですが、子供はなぜ母親がテレビを見るなというか分からず、単に母親の機嫌が悪いだけと思ってしまいがちですから(笑)。
では、なぜ「让」の後に「不」が来る場合は「不要」(もしくは「别」)としなければならないのでしょうか。
これは想像ですが、「让」のあとに来る動詞句は、命令のニュアンスでなければならないのかもしれません。
中国語の命令形ってはっきりした形式はありませんよね。「行け!」なら「去! qù」と動詞をそのまま言えば命令形になります。
でも命令形の否定(つまり「禁止」)は、はっきりした形があります。たとえば「行くな!」だったら「不去!」ではなく「不要去!」や「别去!」ですよね。
だから、「让他不吃」はダメで、「让他不要吃」や「让他别吃」はOKということになるのでしょう。
ちょっとしたことですが、また1つ賢くなりました(笑)。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本