第240回誉めることはいいことだ
以前にも書いたことがあると思いますが、伊藤は以前、割と長い間学習塾の先生をやっていました。
最初はわけもわからず手探りでやっている感じでしたが、とにかく生徒は誉めて自信を持たせる、その教科を好きにならせる、ということが必要だと、いつの頃からか考えるようになりました。
で、ある日、指名した生徒がちゃんと答えられた時に「すご〜〜〜い、○○さん、よく答えられたねぇ。すばらしい〜〜〜!」と、ちょっと大袈裟な誉め方をしたのですが、当の生徒さんから「先生、声が乾いています」と冷静なツッコミをいただきました(笑)。
さすがに見え透いた嘘は見破られますね〜。子供って鋭いです。
さて、伊藤に限らず、日本人って誉めるのが下手な印象が僕にはあります。小さい頃から叱られることはあっても、ほめちぎられるような経験は、あまり日本人ってしていないのではないですかね?僕だけかな(笑)。
少し前になりますが、NHKの連ドラ『梅ちゃん先生』、ご覧になっていましたかね。昭和20~30年代あたりが舞台になっていたようですが、主人公「梅子」のお父さん、なかなか娘を誉めませんよね。どちらかというとちょっと憎まれ口を叩いてしまうのですが、我々視聴者はそんな不器用な姿に好感を抱いてしまう傾向にあると思います。そう、日本人ってどちらかというと、言葉ではなく行動で示すのが美徳、のようなところがありますよね。
だから言葉で誉められると、かえってちょっと胡散臭く感じてしまったりするのでしょうか。なんとなく素直にとれなかったりします。
まだ目上の人が目下の人を誉めるというのは、時々ありますが、目下の者が目上の人のことを誉めるというのは、うまく出来ないとかのレベルでなく、失礼になってしまうことすらありますよね。例えば、「先生、今日の授業、上手でしたね。」とか言われると、先生としてはちょっとムっとしてしまうかもしれません(笑)。
そうですね。「感動しました!」とか「素晴らしかったです!」というような言葉ならいいのですが、「上手だった」とか「よく書けている」とか、「評価する」ような言い方になると、日本語では言いにくくなるようです。はっきりした上下関係があるのであれば(先生から生徒へ、上司から部下へ、等)、評価してもいいのですが、そういう関係が無い場合や、下から上へ言う場合などは、日本語では失礼になったりします。
でも中国語では割とその辺は平気みたいです。
数年前中国に行って久しぶりに中国人のツアーに交じって万里の長城に行った時のこと。ガイドさんは日本語も英語もできない様子でした。で、万里の長城に着いて解散となる時に、帰る時の集合時間や集合場所を教えてくれました。で、念のため後でガイドさんを捕まえて集合時間と集合場所を確認してみると、なんか大袈裟に驚いてくれてこう言われました。
对!没错!你真聪明!
duì ! méi cuò ! nĭ zhēn cōng míng !
そう、その通り!あなたホントに賢いわ!
誉められちゃいました(笑)。
もし日本で外国人が日本語で集合場所や時間の確認をしてきて、それが完璧であったら、我々日本人ならどう言うでしょうか。そうですね。少なくとも「賢いわ!」とは言わないでしょうねぇ(笑)。「日本語お上手ですね。」くらいは言うかと思いますけど。
他にも、例えば小学生の子供が大人の作家の書いた詩を読んで感動して
诗写得特别好。
shī xiě de tè bié hăo
詩がすごく上手く書けている。
というような言い方をしたりします。
これがもし、日本語で子供がこういうことを言ったとすると、すごく生意気ではないでしょうか(笑)。
他にも、例えば学生が教授の論文を読んで感動して
老师,您的论文写得真不错。
lăo shī, nín de lùn wén xiě de zhēn bú cuò
先生、先生の論文、本当によく書けていましたね。
と言ったりするのは、そう珍しいことではないそうです(『小点心』陳淑梅著)。
みなさんも中国人との付き合いが増えて来ると、もしかしたら色々と誉められることがあるかもしれません。しかし相手が目下の立場であったとしても、誉められたら素直に喜んでおきましょうね(笑)。彼らに悪気はないらしいので。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本