第242回領土問題雑感
日本は海に囲まれている島国ですから、普段そんなに「国境」というものを意識することはありませんが、尖閣諸島の問題以来は否応なく「国境」とか「領土」というものを意識させられるようになりましたね。
本メルマガは政治的なことは書かないことにしていますが、領土問題に絡む中国語の問題について、思ったことや調べてみたことなどを書いてみたいと思います。
中国関連の領土問題といえば尖閣諸島ですね。尖閣諸島は「諸島」というくらいですから、複数の島からなっています。ちょっと調べてみると、5つの島と3つの岩からなっているとか。以下、5つの島について一つ一つの名前を日中両国語でご紹介します。
- 魚釣島(うおつりじま) 钓鱼岛 diào yú dăo
- 久場島(くばじま) 黄尾屿 huáng wěi yŭ
- 大正島(たいしょうじま) 赤尾屿 chì wěi yŭ
- 北小島(きたこじま) 北小岛 běi xiăo dăo
- 南小島(みなじこじま) 南小岛 nán xiăo dăo
こうやって見てみると、日中両国で名前の違うのは最初の3つですが、「魚釣島」は中国語の文法にのっとって「钓鱼岛」と漢字を入れ替えただけですし、「久場島」「大正島」は日本でも「黄尾嶼(こうびしょ)」「赤尾嶼(せきびしょ)」ということがあるようなので、全部同じ名前と言えなくもないですね〜。(「嶼(屿)」というのは、日本でも中国でも「小島」という意味です)
でもこれらの小島の総称は日中両国で違うのですね。ご存知のとおりですが、一応書いておきます。
尖閣諸島(せんかくしょとう) 钓鱼岛 diào yú dăo
ここでいつも僕は「あれ?」と思ってしまいます。日本では5つの小島と3つの岩をひっくるめて「尖閣諸島」と呼んでいるのに、どうして中国は「〜〜諸島」というような言い方をしていないのでしょうか。
ちょっと調べてみたのですがはっきりとはわかりませんでした。ただ、どうも本当は「钓鱼岛群岛 diào yú dăo qún dăo」というような言い方があるようです。これらの島々のうち、最も大きい島は魚釣島(钓鱼岛)です。だから魚釣島(钓鱼岛)を中心に据えて、この島々を「钓鱼岛群岛」と言っているようです。
で、普段は省略して(?)「钓鱼岛 diào yú dăo」としか言わないようなのですね。
領有権を主張して色々な行動を起こす割には、名称については結構いい加減だなぁとか思ったりしたのですが、、、どうも「島」については日本でも同様のことがあるようです。
たとえば、韓国との間で問題になっている竹島(韓国名「独島」)は、調べてみると2つの島といくつかの岩からなるようですね。日本の外務省のHPでは竹島のことを「日本海上に位置する群島」としており、「東島(女島)、西島(男島)の2つの小島とその周辺の数十の岩礁からなり…」と書いてあります。
そう、日本でも、竹島はいくつかの島や岩からなる「群島」なのに、「竹島」とあたかも1つの島かのような名前で呼んでいるのです。
いい加減とかいうわけではなく、そういうものなのかも(笑)。そういえば北方領土は「北方四島」とも言われ、4つの島とは「択捉島」「国後島」「色丹島」「歯舞群島」の4つとされていますよね。つまり、歯舞群島は1つの島ではないにもかかわらず、1つの島として数えられ「北方四島」の1つとされているわけです。
「島」という字の意味は、場合によっては集合名詞のような扱いになることもあるのかなーと思ったりしました。
さて、日韓で問題になっている竹島(韓国名「独島」)ですが、中国ではこの島のことをどう呼んでいるのでしょうか。ちょっとインターネットでチラチラ見てみましたところ、、、
独岛(日称竹岛)
dú dăo ( rì chēng zhú dăo)
「独島(日本は竹島と呼んでいる)」
というような表現を使っていることが多いように思いました。つまり、韓国側の立場に立った表現をしているのですね。
逆に韓国では尖閣諸島をどう言っているのかというと、専門外なのでよく分かりませんが、韓国専門の知り合いに尋ねたところ、中国の「钓鱼岛 diào yú dăo」の音にのっとった呼称を採用しているとか。つまり、韓国も中国側の立場に立った表現をしているということでしょうかね。
う〜ん。なるほど。。。
ま、我々としては、現実をよく見据えたうえで、冷静にいきたいですね。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本