第254回久々に三国志
ちょっと最近バタバタしていていいネタが思いつかないものですから、「困った時の三国志」を行使させていただきたいと思います(笑)。
皆さんの中にも三国志ファンは結構いらっしゃるのでしょうか。僕なんかは、高校3年生の時に吉川英治の『三国志』という小説を読んで中国に興味を持ち、中国語の世界に分け入ったような次第です。最近は三国志のゲームもあるし、映画『レッドクリフ』で三国志に興味を持った人もいるかもしれませんよね。結構昔から、日本人にとても人気のあるお話です。
当の中国でも、もちろん三国志は人気がありますが(中国では《三国演义 sān guó yăn yì》と言います)、日本人の三国志ファンのようなコアなファンは少ないような印象がありますねー(笑)。僕の周りの中国人を見回してみても、僕ほどの三国志ファンは見当たりません(笑)。特に女性は、読んだことすらないという人も多いようです。
でも中国語の中には三国志にちなんだ言葉や言い回しが実は結構ありまして、三国志を知っていると「あ〜、あれか!」と思うことが多々あります。
例えば、以前NHK国際放送局のHP(www.nhk.or.jp/chinese)の中の動画コンテンツを見ていると、こんな表現が出ていました。
低迷不振的出版界希望借这股东风,吸引更多读者。
Dīmí bú zhèn de chūbănjiè xīwàng jiè zhè gŭ dōngfēng, xīyĭn gèng duō dúzhě.
低迷している出版界はこの「東風」に乗って、より多くの読者を獲得したいと思っている。
この中に出て来る「东风」という言葉を自然な日本語として訳すなら「追い風」という感じでしょうか。
しかし、どうして「东风」が追い風のような意味になるかというと、これは恐らく三国志に関連があるのではないかと思います。前にも書いたことがありますが、三国志の中のクライマックスとも言える「赤壁の戦い」に関係がありそうです。
赤壁の戦いは、魏(曹操)の軍勢と蜀(劉備)・呉(孫権)連合軍との戦いです。
魏軍は長江の北西岸に陣取り、蜀・呉連合軍は南東岸に陣取っています。兵士の数から行けば魏軍が圧倒的な優位に立っているので、蜀・呉連合軍が勝つには魏軍に火攻めを仕掛けるのが一番よいのですが、その時の季節では北西の風は吹いても南東の風はあまり吹きません。つまり、蜀・呉軍からすると北西の風は向かい風になるので、火攻めはできないのです。火を放つと自陣を焼いてしまいますからね。
そこで、蜀の軍師である諸葛孔明が天に祈って南東の風を吹かせるのです。
蜀・呉連合軍は、この南東の風に乗って魏軍の陣に火を放ち、大勝利を収めるのでした。
この南東の風、よく「东风」と称されます。例えばこんな言い回しがあります。
万事俱备只欠东风
wàn shì jù bèi zhĭ qiàn dōng fēng
万事整っているが東風のみが足りない
ほぼ準備万端整っているが、何か重要なものが1つだけ整っていない状態の時にこの言葉を言うそうです。
そして、上記でもご紹介したように「东风」だけでも「追い風」のような意味で使うこともできるようです。そして、ふつうは「借jiè」という動詞を使って
借东风
jiè dōng fēng
追い風に乗る、勢いに乗じる
というふうに使うのです。「借」という動詞を使うのは、やはり三国志で「借三日三夜东南大风(三日三晩の南東からの大風を借りる)(原文のまま)」という表現を使っているので、そのまま現代語でも「借」を使っているようです。
三国志の世界って現代中国にも相当食いこんでいますね〜。もっともっと三国志関連の言葉がちょっとしたところに転がっていそうです。何かあったらまたご紹介しますね。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本