第256回うん
前回、外国語に毒されるという話を書きました。
前回書いたような、受動態ですとか倍数表現ですとか、そういう文法的な面での外国語の浸食は、気をつけていればある程度防げると思うのですが、もっと反射神経的に出て来るちょっとした言葉はなかなか防ぎきれませんね。
例えば、僕はよく驚いたことや困ったことがあった時に、ついこんな言葉を口にしてしまいます。
哎呀
āi yā
哎哟
āi yō
中国語を習うようになって、初めてこのような言葉(というか叫び声?)を聞いた時はすごく驚きました。だって、日本では「あいやー」とか「あいよ!」なんて、どんな状況でも言わないじゃないですか。英語などでも聞いたことがありませんでしたし。
でも中国語の中ではごく自然に出て来る叫び声ですよね。最初は面白がって真似をしていた伊藤青年(当時)も、数年ですっかり、普通に「あいや」「あいよ」と口にしちゃう「中国かぶれ」になっておりました(笑)。
まぁこの辺は日本社会で言っていても「変な人」「面白い人」で済みますが、日本社会で言っちゃうと誤解を生んでしまいかねないようなのもあります。
例えば、誰かと話していて、ふと車のクラクションなどの雑音が入って相手の話が一瞬聞こえなかったとしましょう。そんな時、私たちは何と言うでしょうか。
そうですね。ふつう日本では「え?」とか「はい?」とか「うん?」とかでしょうかね。
まぁ相手との関係によって様々な言い方をするでしょうけど、「は〜?」とか「あ〜?」とやるのは避けたいですね。というのは、こういう言い方はふつうケンカ腰の時に言う言い方だからですよね。
ところが、中国語では相手の話がちょっと聞こえなかった時などに、「あ〜?」って言うのですよね。でも全然悪気はないようです(笑)。だから中国初心者の方、ビックリしないでくださいね。
逆に、中国社会にいると、この「あ〜?」というのがつい身に着いてしまって、日本社会でもついついやってしまいそうになるので気をつけねばなりません。あと中国人の人も日本では「あ〜?」って言わないように気をつけなければなりませんよね。
こういう反射神経的に出てしまう言葉はなかなか直らないから困りますよねー。
他に僕が気をつけたいと思いつつ直っていないのが「うん」です。
小さい頃、大人の人から「ぼくいくつ?もう幼稚園行ってる?」とか聞かれたら、つい「うん」と答えてしまって親から「ハイって言いなさい!」って怒られたことありませんか?僕はしょっちゅう言われていました(笑)。
まぁ考えてみれば幼稚園児くらいの子が「はい、今年から幼稚園に行っています」とハキハキ答えたら、それはそれでビックリしちゃうかもしれませんが、親としては躾のつもりで「ハイって言いなさい」と言ってしまうのでしょうね。
ま、いずれにせよ、日本では「うん」という返事は丁寧さに欠けるので、目上の人に対しては使いませんし、フォーマルな場でも使わない傾向にありますよね。
しかし、中国語では結構言っています。ふつうに。
例えば、古い話で恐縮ですが、『芙蓉鎮』という映画の中で、許可なく(?)飲食店を経営していた主人公に対して、役人(だったかな?)が調査に来る場面がありました。いくらくらい儲けているかとか、新しく建て増ししたところの土地の権利関係とか、意地悪くネチネチ尋ねて来る相手(女性)に対して、主人公(女性)はいちいち「うん」「うん」と答えています。
いやぁ、日本だったらああいう場面で「うん」とか言ったら火に油を注ぎかねませんよね(笑)。でも中国ではこれでいいのです。
これ、実は僕はいまだに抜けないのです。人と話している時、よく「うん」「うん」って言ってしまっているのに気がついて、あわてて「はい」と言い直すことがあります。気をつけたいですね。
ちょっとしたことですが、こんなことで友好関係が崩れるとつまらないですよね。お互い相手のことをよく知ることがホントに必要だとは思うのですが、小さいことほど気をつけなければならないのかもしれません。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本