第263回異質なものとの出会い
いじめ問題とか差別の問題に関して議論する場合などに、よく「自分とは違うものをいかに受け入れるか」というようなことが言われているように思います。
日本はほぼ「単一民族国家」と言っていいような状況ですから、何か自分と違うと思うものに対する免疫がついていない、だから異質なものを排除しようとする力が働き、差別やいじめをしてしまう、というような議論ですね。
このことは、外国語学習にも表れているような気がします。
若い内はまだいいのですが、ある程度大人になってから外国語を習う場合、色々なことを頭で理解しようとして、理解できない、もしくは理解しがたい、もっと言うと理解したくないような現象については拒絶反応を示してしまう傾向があるようです。
いや、拒絶反応ならまだしも、「これはおかしい」「こんなのありえない」と批判的に言われると、もうこちらとしてはお手上げです(苦笑)。
おかしい、なんて言われても困るのですよね。実際にそういう言語現象があるのですから(笑)。
外国語を勉強していると、色々なことに「え?」「うそ!」と思ってしまうと思うのですが、その時「へー!面白い!」と思えるかどうかがカギになっているなーと思います。
僕も中国語を教えさせていただくようになってすでに10年以上になるので、多くの生徒さんを見てきましたが、その中でも特に素晴らしかった2人の人を紹介しようと思います。
お1人は、本当に好奇心旺盛な人でした。何か珍しい言語現象があると、「えええ〜?」と驚くのですが、目がキラキラ輝いているのですね。本当に楽しそうで、僕も自分が学生時代同じようにワクワクしていたのを思い出し、非常に楽しく教えさせていただきました。
ちなみに彼は、その後広州に駐在しており、今はもう仕事でも中国語を使うようになってきているようで、僕の自慢の生徒さんです(笑)。
もうお1人は、本当は珍しい言語現象を理解しがたいことも多かったようで、見るからにストレスを感じておられたのですが、面白いことに彼は、イライラするのを無理矢理楽しいと感じるように自分を仕向けておられたようです。
これって重要だなーと思います。つまらないとか分からないとか、そういう時は自分でテンション高くして「へーーー!まじかーーー!」と思いながら勉強すると頭に入ってくるものだと思っています。これは外国語の勉強以外でもそうですよね。
例えば中国語では、目的語が動詞より前に出て来ることがあります。先日もこんな文がテキストに出てきました。
电影里的汉语说得很快。
diàn yĭng li de hàn yŭ shuō de hěn kuài
映画の中の中国語は、話すのが速かった。
この中国語の場合、「说(話す)」という動作をする人が書かれていません。英語に慣れている人ほど、こういう文には違和感を覚えるようですね。だからこの時の生徒さんも、この文はどういう構造になっているのか非常に気になったようです。
この文の場合、「说」という動詞の後ろに様態補語がくっついているので、目的語を置く場所が無いから前に出ている、というように説明されることが多いのですが、その説明を聞いてもどうも納得いかないご様子でした。
「これは、目的語が前に出ているんだから、動詞は受動態にならないといけないんじゃないですか?なんでそうしないんだろう。」
う〜ん、なんでそうしないかと理由を考えても仕方ないと思うのですよね。だって、実際受動態になっていないのですから。
こういう疑問を持つ多くの生徒さんは、ここで思考停止したり、不機嫌になったり(笑)するのですが、この生徒さんはここでグっと我慢。不機嫌に「え〜?」と言ったり「なんかすごいですよね〜、わけわからん」と言いながら、気持ちを切り替えて楽しもうとされていたのです。
外国語を勉強する時は、頭をやわらかーくして、素直に言語現象を受け入れていきたいものですが、「なんでこんな言語現象があるんだよ!」とカチンと来てしまった場合は(笑)、「しんじられへ〜〜〜ん!」「わけわから〜〜〜ん!」とでも叫びつつ、笑い飛ばしてテンションを挙げて受け入れるようにしてみてください。きっとランナーズハイのように楽しくなってくるでしょう(笑)。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本