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翻訳コラム

COLUMN

第264回たくさん食べる

2015.11.25
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

授業でこんな表現が出て来ると、よく生徒さんから質問されます。

多吃一点儿
duō chī yì diănr

そうですよね。パッと見たところ、どういう意味か迷うかもしれません。

だって、前半「多吃」は「たくさん食べる」という意味で、後半「吃一点儿」は「少し食べる」という意味ですから、前半と後半で意味が矛盾しているように見えてしまいますものね。

でも実はちっとも矛盾していないのです。「一点儿」だから分かりにくいので、同じような別の例を見てみることにしましょう。

多买了一个
duō măi le yí ge

これは「1つ買った」のではありません。「1つ多く買った」という意味です。

例えば元々10個買うつもりで出かけたとしましょう。

でも、気に入ったので1つ多めに買っちゃった。つまり全部で11個買っちゃった。

そういう状況を言う時にこの表現になるわけです。

つまり、予定とか想像より多めにあることをする時、動詞の前に「多」をつけてあらわし、具体的に多く行った数量を言いたい時は、その数量を動詞の後につけるのです。

別の例を見てみましょう。

ネットを徘徊していると、育児に関するこんな質問が目に入ってきました。

宝宝发烧时,应多穿一件衣服还是少穿一件衣服?
băo bao fā shāo shí,
yīng duō chuān yí jiàn yī fu
hái shi shăo chuān yí jiàn yī fu


赤ん坊が熱を出した時、服を多めに着せるべきか、少なめに着せるべきか、という質問です。

「服を多めに着る」を「多穿一件衣服」としています。先ほどの通り、動詞「穿」の前に「多」をつけて、具体的に多めに「着る」枚数を動詞の後に(目的語の数量として)入れていますね。つまり、直訳すると「服を一枚多く着る」です。

面白いのは、後半の「服を少なめに着る」の部分です。中国語では「少穿一件衣服」となっています。

対照的ですね。動詞「穿」の前に「少」を置き、少なく「着る」枚数は同じように動詞の後に(目的語の数量として)入れています。多くても少なくても同じように言えるので、表現が広がりますね!

さて、元の表現に戻ってみましょう。

多吃一点儿

動詞「吃」の前に「多」があり、後ろには多めに「食べる」数量が入っていると考えると、分かるのではないでしょうか。

つまり、いつもの量や想像できる量よりも「一点儿(少し)」多めに食べる、という意味なのです。

例えば、いつもご飯を少ししか食べない人に、遠慮せずいつもより少し多めに食べなさいよ、と言いたい時に使う表現ということです。

では、逆にこんな表現も分かりますよね?

少放点儿盐!
shăo fàng diănr yán

そう。料理が少しショッパイので「ちょっと塩を少なめにして!」という時などに言う言葉です。塩分控えめにしている人は、この表現を覚えておくとレストランとかで役に立ちそうですね〜。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本