第307回同志
皆さんご存知の通り(?)、伊藤はNHK国際放送局の中国語放送に関わっております。
先日、LGBTに関するレポート(動画)を中国語バージョンに焼き直してインターネット上で公開しました。
LGBTとは性的マイノリティの人々を指す言葉です。
Lレ ズビアン 女同性恋者 nǚ tóng xìng liàn zhě
G ゲイ 男同性恋者 nán tóng xìng liàn zhě
B バイセクシャル 双性恋者 shuāng xìng liàn zhě
T トランスジェンダー 跨性别者 kuà xìng bié zhě
いわゆる性同一性障害の人々はトランスジェンダーに入ります。
番組の台本は元々日本語で、英語の放送でも公開されたので英語の台本もあり、それらをみて中国人アナウンサーが中国語に訳して中国語バージョンの番組を作るのですが、そのアナウンサーが中国語台本の中で何回かこんな言葉を使っていました。
同志
tóng zhì
この単語、僕が中国語を始めたばかりの頃は、まだ普通に使われる言葉でした。例えばお店に入って店員さんを呼びたい時なんかに「同志!」と呼びかけるのです。相手の年代や性別にかかわらず、誰にでも使えるので非常に便利でした。でも今はそんなふうには使えなくなりました。
いや、別に使ってもいいのでしょうけど、多分失笑されるのではないでしょうかね。いつの時代だ!と(笑)。
それに、今では別の意味で使われるようになっているから、やはり人に呼びかける時には使わない方がいいですかね。今はどんな意味で使われるかというと、同性愛者という意味で使われるのです。
先ほども書いたように、この番組の中ではLGBTの皆さんのことが取り上げられているのですが、話題はどうしてもLとGの人、つまり同性愛者のことに集中してしまいます。そんな時に中国語台本では「同志」という単語が使われていたのですね。
この「同志」という言葉、同性愛者という意味で使われることを初めて知ったのはいつごろでしたか、忘れてしまいましたが、結構昔だったと記憶しています。多分10年ほど前にはもう知っていたと思います。「志を同じうする」ということで、非常にいいと思ったものです。
最近は「同志」という単語は、同性愛者を指す言葉としてすっかり定着した感がありますねぇ。
元々は共産主義のにおいのする言葉ですよね?ですから、最初はちょっと同性愛者を揶揄するようなニュアンスで使われていたのかもしれません。今回この番組を制作するにあたって、やはり揶揄するニュアンスがあるかもしれないと心配だったので、結局この「同志」という言葉は使わないことにしたのですが、後で色々調べたり人に尋ねたりしますと、今では当事者の皆さんが自分たちを指す言葉としても使っているようです。
世界各地で行われているゲイパレード。日本でも東京など大都市で時々行われていてメディアでも取り上げられていますよね?最近は中国でも行われているようです。台湾でも年に1度行われているそうなのですが、そのイベントのタイトルは中国語で次のように言うようです。
台灣同志遊行
tái wān tóng zhì yóu xíng
「遊行」(簡体字では「游行」)というのは日本語でも使わなくはない言葉ですけどご存知でしょうか。「ゆぎょう」と読み、僧侶が各地を歩いて修行もしくは布教することです。中国語ではデモ行進やパレードのようなイベントのことを指します。
同性愛者の皆さんが、自分たちの存在をアピールするパレードの名前に「同志」という言葉を使っているのですから、自分たちのことを、プライドを持って「同志」と呼んでいるように見受けられます。実際、2013年に中国の長沙という都市で行われたゲイパレードの動画を見たところ、彼らはこんなスローガンを叫んでいました。
我是同志,我骄傲!
wŏ shì tóng zhì, wŏ jiāo ào
私は「同志」です。私は(それを)誇りに思います。
心からの叫びを聞いて感動し、「同志」っていい言葉だなぁと思うようになりました。皆さんはどう思われますか?
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本