第320回思い浮かべる映像
言葉を聞いたり読んだりすると、僕たちはそれを頭の中で映像にしますよね?例えば「雨が降って来た」という言葉を聞いたり読んだりしたら、雨の降り出す様子を思い浮かべると思います。
そして相手と言葉を交わすことで映像を共有するわけですが、言葉に現れていない部分はお互いに共有できないのでそれぞれが勝手に補って映像を頭の中に作っていき、時として誤解が生じたりするのですね。例えば「雨が降って来た」という言葉だけだと、大粒の雨なのか霧雨のような雨なのか分かりませんから、お互いがそれぞれ好きな映像を思い浮かべるわけです。
でも日本語ネイティブ同士であれば誤解はかなり少なくなるでしょうね。同じような文化的背景を持つ者同士なので、思い浮かべる映像はそう大差ないと思います。
しかし、異文化コミュニケーションの場では、色々と誤解が出て来ると思います。もちろん、同じ人間同士ですから共通点も多いので、似たような映像を思い浮かべることも多々あるわけですが、違うことも実は多々あるのです。
例えば前にもここでご紹介したかもしれませんが、「お風呂に入る」と聞くとどんな映像を思い浮かべますか?
僕は、湯船につかってノンビリしているような映像が思い浮かびます。
でも中国語の「洗澡 xĭ zăo」だと、やはり体を洗っているとかシャワーを浴びているとか、そういうイメージなのではないかなと思います。日本のように湯船につかってのんびりするような文化が中国にはあまりありませんからね。僕の知り合いの中国人は、「洗澡 xĭ zăo」は「シャワーを浴びる」と訳すことにしている、と言っていました。
また、最近は結構ご存知のかたも増えてきましたが、「餃子(饺子)」ってどんなものを思い浮かべますか?
日本人にとっては「餃子(ギョウザ)」は焼いてあるものですよね?
でも中国語の「饺子 jiăo zi」は煮て食うもの、つまり「水餃子」です。日本で言う「餃子(ギョウザ)」は中国では
锅贴
guō tiē
と言います。
ですから、中国で日本のような餃子を食べたいと思って「我要饺子!」と言っても、出て来るのは水餃子ばかり、ということになると思います。
さて、次の文はどうでしょうか。皆さんはどんな映像を思い浮かべますか?
他哭红了眼睛。
tā kū hóng le yăn jing
彼は泣いて目が赤くなった。
僕は、白眼の部分が真っ赤に充血している様子を思い浮かべます。多分日本語ネイティブは同じように思うと思うのですが、いかがですか?
しかし、中国語ネイティブは、ちょっと違う人もいるらしいです。なんと、目の周りが赤くなる情景を思い浮かべる、というのです!
これはある中国語文法学者さんのブログで紹介されていて、僕もビックリしまして。そこで周りの中国人数人に尋ねてみたのですが、残念ながら彼らは「白眼の充血も目の周りも全部含んでいるような気がする。」という答えでしたが、それでも日本人の考える「白眼の充血」という映像とは少し違っているようですね。
まぁこれが何か大きな誤解を生むわけではありませんが、こういう話を聞くにつけ、結局自分は日本人でしかない、分かっているつもりでも実は中国人のようには中国語を理解できていないということが多々あるのだろうなぁ、なんて思ってしまうのであります(笑)。
いつか、中国人の視点で全てのものを眺められるようになりたいなぁ、、、と、そんなことを考えました。遠く長い道のりではありますけどね。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本