第352回小さいことからコツコツと
今回はこまか〜い話。こういう細かいところにも気をつけて、丁寧に中国語を勉強していきたいと思ったりして(笑)、前回のブログで少しお話した“多音字 duō yīn zì"の話をしたいと思います。
前回お話した“吐 tŭ / tù"のように、子音や母音は同じで声調だけが違うという多音字は、実は結構あります。僕たち日本語ネイティブは声調の違いが苦手という人も多いので、多音字には気をつけなければなりません。いくつかよく出てくるようなものを見て行きましょう。
“倒 dăo / dào"
この字は、例えば立っている状態のものがパタリと倒れる(いわば90度)場合は「dăo」、上下や前後が逆になる(いわば180度)場合は「dào」と読みます。例えば:
房子倒了。Fángzi dăole. 家が倒れた。(90度の倒れ方なので第3声)
次序倒了。Cìxù dàole. 順序が逆になった。(180度方向が変わるので第4声)
他にこんな面白い例も(笑)。
倒车 dăo chē (電車やバスなどで)乗り換える
倒车 dào chē (自動車などで)バックする
いずれも“倒车"と書き、全く同じ字面ですが、意味により読み方が変わります。電車やバスで乗り換えをする場合、乗り換え駅で別の方向に行くこととなりますが、大雑把に言えば90度の方向転換ですから、「乗り換える」という意味の時は「dăo」と読みます。また自動車などをバックさせる場合、自動車の動く方向が完全に180度ひっくり返りますから、「バックする」という意味の時は「dào」と読むのです。
よくお茶を注ぐことを“倒茶"と言いますが、この“倒"は第3声か第4声か、どちらでしょうか。
お茶を注ぐ時、お茶は重力に引かれて下に向かって落ちて行きます。これは180度の転換と捉えられるようで、“倒茶"は「dào chá」と読むのですね。
お正月や春節の時に中華街などでもよく見る“福"という字を逆さに貼りつけたもの、あれはどういうことかご存知ですか?
“福"という字が180度ひっくり返っていますから、言葉で言うとこうなります。
福倒了。(福がひっくり返った。)
この場合の“倒"は、180度ひっくり返っていることを表すので、「dào」と読みます。すると「到dào」という字と同じ音になりますね。そうすると:
福倒了。(福がひっくり返った。)
↓
福到了。(福が到着した。)
ということになり、縁起がいいとされるのです。もし“福倒了"を「fú dăo le」と読むと、「福が来た」という意味には取れないので、絶対に読み間違えるわけにはいきませんね(笑)。
“教 jiāo / jiào"
この字は、品詞によって読み方が変わります。動詞として使う時は「jiāo」、名詞として使う時は「jiào」と読みます。例えば:
他教我英语。Tā jiāo wŏ Yīngyŭ. 彼は私に英語を教える。
この場合は“教"は「教える」という意味の動詞として使われているので「jiāo」と読みます。それに対して、“教室 jiàoshì"“教师 jiàoshī"“基督教 jīdūjiào"などは名詞的に使われているので「jiào」と読みます。
では、“教授"という単語はどう読みますか?
“教授"には動詞の意味と名詞の意味があります。「(大学などの)教授」という名詞の意味と、「教える、教授する」という動詞の意味です。
これも意味によって音が変わります。名詞の意味の場合は第4声となり、「jiàoshòu」と読み、動詞の意味の場合は、第1声で読んで「jiāoshòu」と読みます。原則通りですね。
しかし、皆さんお手持ちの辞書を見てみてください。動詞の場合も「jiàoshòu」と書いてあるものが多いのではないでしょうか?
実はこの単語、一般の人々は「jiāoshòu」と読むのに辞書では「jiàoshòu」となっているという嫌な単語でした(笑)。でも最も権威があるとされる《现代汉语词典》の最新版では、動詞(教授する)の時に「jiāoshòu」という発音が認められていました!いや〜よかったです。これで堂々と「jiāoshòu」と読めますね!(笑)
これは品詞によって読み方が変わる例でしたが、他にもあります:
“量 liáng / liàng"
これも品詞で読み方が変わります。動詞なら「liáng」、名詞なら「liàng」です。例えば:
量体温 liáng tĭwēn 体温を測る
これは「測る」という意味で使われていて動詞なので、「liáng」です。それに対して、“重量 zhòngliàng"“数量 shùliàng"“产量 chănliàng(生産量のこと)"などは「量(りょう)」という意味の名詞なので「liàng」となります。
我々としては、声調が変わるだけで意味や品詞が変わるというのは不思議な気がするかもしれませんが、逆に言えば中国語の声調って本当に大切なんだな〜ということになりますね。できれば音に反応して意味や品詞がパッと条件反射的に感じ取れるようになれるよう、日々耳を鍛えましょうね!
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本