第363回给
とある中国語レッスンで使っているテキストに、こんな文が出てきました。
例文1:
(会社の受付での客への応答として)
请稍等片刻,我马上给您联系一下。
Qĭng shāo děng piànkè, wŏ măshàng gěi nín liánxì yíxià.
前半の“请稍等片刻"は「しばらくお待ちください」という意味ですが、後半はどうでしょうか。
この時の生徒さんはこれをこのように訳しました。
「私はすぐにあなたにご連絡いたします。」
ですよね〜。“给 gěi"は「〜に」と訳すことが非常に多いので、そういう意味だと思ってしまうのも無理はありません。
でも文脈を考えてみますと、受付の人が客本人を目の前にして「しばらくお待ちください、すぐにあなたに連絡します。」というのは、ちょっと矛盾がありますよね。
ここは、正しくは「すぐに連絡いたします。」という意味です。つまり、客が面会を希望する相手に連絡を取ります、という意味です。この“给您"は別になくてもよさそうなものですが、「あなたのために(あなたの代わりに)〜してさしあげる」というようなニュアンスを出すために時々動詞の前に入り込みます。
すると、生徒さんからこんな質問が出ました。
「え?この中国語“我马上给您联系一下"は『私はすぐにあなたにご連絡いたします』という意味には絶対取れないんですか?」
そうですよね。僕も色々考えてみたのですが、この場合はどうもそういう意味には取れなさそうです。
というのも、「Aさんに連絡する」ということを言いたい時は普通こんなふうに言うだろうと思うのですね。
和A联系。
跟A联系。
同A联系。
そう、この“联系"という動詞を使って「〜に連絡する」「〜と連絡を取る」という場合、使う前置詞は“和 hé"“跟 gēn"“同 tóng"くらいで、恐らく“给"はあまり使わないと思われます。というわけで、やはり正解は「すぐに(面会を希望する相手に)連絡します。」なのですね。
このような“给"の用法、時々出てきます。特に“给我"は主に命令文で出て来て、ケンカしているような場面で使われます。例えば:
例文2:
给我滚出去!
Gěi wŏ gŭn chū qu
出て行ってくれ!
例文3:
快给我放手!
Kuài gěi wŏ fàng shŏu!
はやく手を放してくれ!
いずれも“给我"がなくてもあまり大きく意味が変わることはありません。それに比べて以下の例文ではどうでしょうか。
例文4:
给我打电话!
Gěi wŏ dă diànhuà!
私に電話してくれ!
この文の場合、“给我"を無くして“打电话!"とだけ言ったとしたら、誰に電話をかけるのかが分からなくなってしまいますね。この場合の“给我"ははっきり「動作の対象を表す」という前置詞“给"の意味が生きています。だから、省略することはできません(もちろん文脈で誰に電話をかけるのか分かっている場合は省略可です・・・笑)。
それに比べて例文2の場合だと、単に“滚出去!(出て行け!)"とだけ言ってもそんなに意味は変わりません。出て行くのは話の相手であって、他の人という意味にはまず取れませんからね。
どう違うかというと、単に「出て行け!」と命令するだけでなく、「私のために出て行け」つまり「頼むから出てってくれ!」というような、自分の利益のためにそれをしてくれ、というニュアンスが出るようです。多くの場合相手をののしったり叱責したりする時に使います。
更に、例文1、2、3のような“给"の用法は、“给我"“给你 / 您"だけでなく“给+三人称"でも使われることがあります。例えば:
例文5:
我给他写信。
Wŏ gěi tā xiě xìn
普通この文を見ると「私は彼に手紙を書く。」という意味に取るだろうと思うのですが、文脈次第では「私は彼のために(彼の代わりに)手紙を書いてあげる。」という意味にもなり得ます。例えば「おじいさんは目が悪くて字を書くのが困難だ」というような言葉の後に“我给他写信"と書いてあれば、「私は彼の代わりに手紙を書いてあげます。」という意味になりますね。
“给"もなかなか一筋縄ではいきません。区別がつきにくい時もありますが、自分でも上手く使いこなせるようになりたいですね。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本