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翻訳コラム

COLUMN

第368回存現文的な日本語

2018.01.24
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

皆さん、存現文はお得意ですか?

存現文、中国語では"存现句"と言います。これは、我々日本語話者にとっては不思議なことが起こりますよね。日本語だと主語になるはずの単語が存現文では動詞の後ろに入るので、最初は戸惑うのではないでしょうか。例えばこんなの。

门前站着一个人。
Mén qián zhànzhe yí ge rén.
ドアの前に1人の人が立っている。

この文、日本語だと主語は「1人の人」ですが、中国語では"一个人"は動詞"站"の後ろ(目的語の位置)に入っていますよね。

我家来了一位客人。
Wŏ jiā láile yí wèi kèrén.
私の家に1人のお客さんが来た。

この文でも日本語の文では主語は「1人のお客さん」ですが、中国語では"一位客人"が動詞"来"の後ろに入っています。

また、"有"を使う文も存現文の一種です(存現文に含めないという意見もあります)。例えば:

房间里有三把椅子。
Fángjiān li yŏu sān bă yĭzi.
部屋の中には3脚の椅子がある。

この文も同じで、日本語では「3脚の椅子」が主語ですが中国語では"三把椅子"が動詞"有"の後ろに来ています。

日本語ネイティブとしては不思議に感じると思いますが、これが存現文の一大特徴です。

中国語検定でも存現文は時々狙われます。例えば1つ目の例文「ドアの前に1人の人が立っている。」が語順を問う問題や中作文で出題されると、多くの人は次のようにやってしまうようです。

一个人在门前站着。

残念ながらこれでは不正解になってしまうので、存現文には慣れておきたいですね。

でも、実は日本語の中に、存現文的な単語が入りこんでいることをご存知でしょうか。意外とたくさんあります。

有人(ゆうじん)

有人宇宙飛行」とか「有人潜水調査船」のような言葉で出てくるこの「有人」という言葉、「人がいる」という意味なのに「人有」とは言いません。いかにも存現文的だなぁと思いますね。

開花(かいか)

桜の季節だと気象庁が「開花宣言」をしますね。この「開花」という言葉も、意味は「花が開く」ですよね。でも主語であるはずの「花」より動詞「開く」の方を先に置いて「開花」と言っています。「花開」とは言いませんよねぇ。やはり存現文的!

来客(らいきゃく)

上で挙げた存現文の例文の中に"我家来了一位客人。"というのがありましたが、日本語にも「来客」という言葉がありましたね(笑)。これも「客来」とは絶対言いません。面白いですね〜。やはりこれも存現文的!

出火(しゅっか)

さて、この単語はどうでしょう。「火を出す」と考えれば普通に「動詞+目的語」の語順になりますが、はたしてそうですかね?

「出火(しゅっか)」という単語を使う例文を考えてみましょう。例えば:

調理場から出火した

これは「調理場から火を出した」よりは「調理場から火が出た」と考える方が普通だろうと思います。放火ならともかく、普通は意図的ではないはずなので「火を出した」ではなく「火が出た」でしょうね。そう考えると、やはり存現文的!

というわけで、実は結構日本語の中にも存現文的なものは結構たくさんあるのです。それに気付けば、存現文が苦手だった人もちょっとは親しみが持てるのではないでしょうか?

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本