第372回形容詞述語文
形容詞が述語になる文のことを「形容詞述語文」と言います。どんな文かというと日本語だと例えば「私は忙しい。」というような文。「〜〜はどんなだ」という文ですね。
日本語だと形容詞(形容動詞も含む)だけで述語になれます。上記の例文「私は忙しい。」も「忙しい」という形容詞だけで述語になれています。でも英語だとbe動詞が必要です。つまり:
I am busy.
この「am」というbe動詞がないと文として成立しません。
では中国語はどうかというと、日本語と同じで、形容詞だけで述語になれます。中国語には英語のbe動詞にとても似た"是 shì"という動詞がありますが、形容詞述語文には必要ありません。つまり:
我忙。
Wŏ máng2.
これだけで文として成立します。簡単でいいですよね〜。
でも実はこういうふうに言うことは実は少なく、多くの場合"很hěn"という言葉を伴うということは、皆さんご存知ですよね?つまり:
我很忙。
Wŏ hěn máng2.
私は忙しいです。
これについて、テキストではどんなふうに説明しているのかなと思うと、あまり詳しくはかかれていない印象です。曰く「形容詞の前にはよく『很』が置かれる」というような感じです。入門期の人にあまりややこしいことを言っても混乱するだろう、という配慮なのかもしれませんね。
しかし、僕が某大学の授業で使っているテキストでは、形容詞述語文が出てくるレッスンで比較の文も出たり、形容詞を使った反復疑問文や選択疑問文も出てきます。つまり、単純な形容詞述語文では"很"が形容詞の前に置かれているのに、比較の文では"很"が使われないし、選択疑問文でも使われていないので、"很"ってあってもなくてもいいの?どういうこと?と混乱してしまうようなのですね。というわけで、僕はよく授業で、どういうことなのか説明しています。皆さんはご存知ですか?
実は、形容詞が1語だけで述語として使われる場合(つまり"很"が置かれない場合)、その形容詞は少し「比較」のニュアンスが出てしまうのです。
例えば「東京が大きい(広い)ですか?それとも北京が大きい(広い)ですか?」という選択疑問文に対する答えは、日本語だと「北京(のほう)が大きいです。」と言いますね。「北京は大きいです。」とは絶対言わないと思います。つまり「が」を使うといくつかを比較して選んだようなニュアンスになります。
中国語ではそういう場合、普通に形容詞だけで言えばいいのです。つまり:
北京大。
Běijīng dà.
北京(のほう)が大きいです。
逆に言えば、"北京大。"と言ってしまうと日本語で言うところの「北京が大きいです。」というニュアンスになってしまうのです。もし単に事実として「北京は大きいです。」とだけ言いたい(比較のニュアンスを出したくない)場合は、程度の副詞で形容詞を修飾します。
程度の副詞というのは、例えば"很(とても)""非常 fēicháng(非常に)""太 tài(あまりにも)"のようなものです。これが形容詞の前に置かれると、比較のニュアンスは消えます。
そしてその中でも意味が薄いのが"很"なのですね。だから単に「私は忙しいです」とか「北京は大きいです」とか「彼は背が高いです」と言いたい時は、"很"を形容詞の前に置くことが多くなるわけです。
また、「AはBより〜だ」という比較の文では、形容詞の前に"很"を置きません、と教えられていると思いますが、それはなぜかというと、上で述べたように"很"などの程度の副詞を使ってしまうと比較のニュアンスが消えてしまうからです。
我比他忙(×我比他很忙。)
Wŏ bĭ tā máng.
私は彼より忙しい。
この文は"比他(彼より)"という「比較の対象」があります。だから形容詞にはキチンと「比較のニュアンス」を出しておかなければなりません。もしいつもの癖で(?)"很"なんかつけちゃうと、せっかくそのままで出ている「比較のニュアンス」が消えてしまいます。だから比較の文では絶対に"很"などの程度の副詞をつけてはいけないのですね。
どうしても何かつけたい、なんかつけさせて!という人は、比較の文の中で使える副詞をつけておきましょう。たとえば"更 gèng(更に)"や"还 hái(もっと)"であればつけてもいいですよ(笑)。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本