第380回語学でのオモテナシ
日本の人って、外国語を学ぶ際にあまり発音を気にしませんよねぇ。
あれって何なんでしょう。中学や高校の英語の授業でもそうです。あまり英語っぽい発音をするのは恥ずかしいっていうのがあるみたいですよね。まぁ僕も英語を英語らしく発音するのは、ちょっと照れてしまいますが(笑)。
でも、僕は中学や高校の時は英語が大好きだったので、発音もネイティブの真似をするように結構練習しました。今はもうすっかりダメですが、発音練習は大好きでした。
でも英語の場合は、世界中で色々な人が話していることもあり、下手な発音にも結構寛容です。本場のブロードウェイでミュージカル俳優として活躍する渡辺謙さんのようになりたいなら、血のにじむような努力が必要ですが(苦笑)。
さて中国語はどうでしょう。もう皆さんご存知でしょうが、寛容度は低いです。ちょっとしたことで通じなくなります。だから相当の覚悟をもって発音練習をしていただきたいと思うわけであります。
なのに、なかなかその気持ちは大学生さんたちには伝わりません〜(苦笑)。先日、某大学の前期末に行った授業評価アンケートの集計結果が送られてきたのですが、自由記述欄にある学生がこんなことを書いていました。
「ピンインを間違えて読むとバカにしてくる。大嫌いです。もう二度と会いたくない」
ひえ〜。ここまで嫌われるとは思いませんでした。無記名なので誰なのかは分かりませんが、よほど腹が立っていたのでしょうねぇ。
でも、この学生は中国語学習2年目なのです。僕としては、2年目でピンインを読み間違えるというのは、あってはならないことだと思っています。ましてこのクラスは1番レベルの高いクラスだったのです。実際このクラスは、1年目でほとんどの学生が中国語検定4級に合格し、中にはすでに3級にも合格しているような学生が少数ながら在籍しているクラスです。でもピンインをきちんと読めない学生が結構な数いるのです。
発音が悪いとか声調が不安定とか、そういうレベルではありません。「si」を「シー」と読み「qu」を「クー」と読み、「cong」を「コン」と読むレベルです。
バカにしたつもりはなかったのですが、もう間違えてほしくないと思って結構しつこく突っ込んだので、プライドを傷つけられたのでしょうかね。それは申し訳ないことをしたと思うのですが、ピンインを間違えて読むことを「恥」だと思うくらい、ピンインはしっかり読めるようになってもらわなければな〜と思うのです。自分でピンインを読めないと、独り立ちできませんしねぇ〜。
しかし、ピンインを読み間違えるのはなんとか乗り越えても、カタカナ発音では全く通じないのが中国語の恐ろしいところですね。
以前も書きましたが、僕は以前“敦煌"(シルクロードの地名)がすぐに通じなくてショックを受けたことがありました。
“敦煌"は中国語では“Dūnhuáng"と読みますね。この最初の字“敦 dūn"の「-un」が曲者です。
これは「トゥン」と読んでは全く通じません。というのは、「-un」は本当は「uen」といだからです。前に子音がつくと、「e」は書かれずに「-un」と表記するのでした。
でもそんなことは別に考えなくても大丈夫です。しっかり「u」の音を出してから「n」をしっかり忠実に出せば自然と間に「エ」のような音が介在するのです。
つまり、唇をしっかり丸めて前に突き出し、口の中は「オ」を言う時と同じくらいに縦に開いて「u〜〜〜」と言った直後に、舌先を前歯の裏か根本辺りにくっつけて「n」を発音します。
すると、「u」の時は唇は丸まっているし口の中は広くあいているのですが、「n」の時は唇は半開きか横に少し引かれるような形になり、口の中は舌がせり上がってくるので狭くなります。唇の形も変わるし、口の中の広さも変わるので、瞬間的には「u」から「n」に変えられなくて、間にほんの少しだけ「エ」に似たような音が入り込みます。ちょっと自分の口で実験してみてください。
これさえちゃんとやっておけば、必ず通じます。でも日本の人は唇をしっかり丸めたりするのは恥ずかしいのか面倒なのかあまりしてくれませんし、「n」も舌先を歯の裏あたりに当てることなく適当に「ン」と言ってしまいます。そうすると通じないわけです。いえ、舌先を歯の裏あたりに当てていても、唇の形が全く変わっていないと、ダメです。顔の筋肉を総動員して発音しなければダメなのですよね〜。
僕のある友人は、少し中国語を勉強していて、時々カルチャーセンターなどで中国語中級の授業を受けたりしています。こういうところの中級の授業の受講者には、以前中国に留学していたことのあるような人が結構受講しているそうで、そういう人はたいてい、流暢には話せるものの発音はひどいのだそうです。恐らく、留学するととりあえず何でも話して生活しなければならないので、発音のトレーニングをすることがあまりなかったのでしょうね。
友人は、「発音が悪い人は、相手にものすごい負担をかけて聴いてもらっているということに気づいていない」と言っていました。今まであまりそういう観点で考えていませんでしたが、本当にそうですね。
実践は大切です。しかし実践した後の反省や研究はもっと大切だと思います。なんとなく通じるようになると、反省や研究をしなくなるんですよねぇ。僕も気をつけて、常に発音を磨きたいと思います。
2020年の東京五輪に向かって、中国語やその他外国語を勉強しようという人も増えてくるかと思われますが、発音なんてどうでもいい、とは思わず、相手ができるだけストレスなく聴ける発音を習得するように頑張ってください!ネイティブ並みになる必要はありませんが、相手の身になって謙虚に外国語を勉強すると、その真摯な気持ちは必ず伝わります。そしてそれが本当の「(語学での)オモテナシ」だと思います。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本