第406回曹操の言葉
お陰様でこのところ忙しくさせていただいておりまして、ブログのネタをゆっくり考えている心理的余裕がありません(苦笑)。というわけで、こんな時の伝家の宝刀、三国志ネタを書きます。
いつも三国志ネタというと“歇后语 xiē hòu yŭ”をご紹介することが多いのですが、今日はちょっと趣向をかえて、曹操の名言(?)と言われている言葉をご紹介します。
その前に、曹操はご存知ですよね?
曹操
cáo cāo
この人は三国時代の魏の国を建てた人とされています。蜀の劉備(刘备 liú bèi)が義に厚い人、人情家とされているのに対し、曹操は冷酷無比な悪者とされていることが多いです。京劇でも曹操の顔は白塗りにされていますね。京劇では白塗りは悪者のメイクです。
さて、そんな曹操の、やはり冷酷無比な印象を伝えるこんな言葉があります。
宁我负人,毋人负我
nìng wŏ fù rén wú rén fù wŏ
自分が人にそむくことはあっても、人が自分にそむくことは許さない。
三国志の物語は後漢の末期から始まるお話で、まず黄巾の乱という反乱から始まります。この反乱はなんとか制圧されるのですが、その時功績のあった将軍たちの中で大変力のあった董卓(董卓 dŏng zhuó)という男が皇帝を操り人形にして実権を握ります。
忠臣たちは憤りますが、敵対する者どもを何の躊躇もなく殺してしまう董卓に、手を出せる英雄は出てきません。
そんな時、立ち上がったのが曹操でした。
曹操は董卓に取り入って董卓のお気に入りになることに成功します。そして時期をうかがって、董卓を刺し殺そうとするのですが、ばれそうになり逃亡します。
董卓は各地に連絡を飛ばし、曹操を捉えようとします。曹操は、そんなとき頼りになるのは親族だということで、義理の叔父にあたる男の家に身を隠そうとします。
義理の叔父はすでに曹操が追われていることを知っていましたが、董卓の圧政を快く思っていなかったからか、曹操をかくまおうとします。そこで食事や酒の用意をしようと近隣のお店に買いに出るのですが、曹操は「奴は通報しに行ったに違いない」と思って、義理の叔父の家族を皆殺しにし、逃げる途中で会った義理の叔父も殺してしまいます。
しかしそれが誤解だったことが分かり、同行していた男が曹操を詰ります。
「こんないい人たちを、殺してしまうなんて、ひどいではありませんか!」
その後曹操が言い放った言葉が、先ほどご紹介した言葉“宁我负人,毋人负我”です。
自分が人々に何をしようと構わないが、人が自分に逆らうのは許さない。いや~、恐ろしい男ですね。本当かどうか分かりませんが(笑)。
さて、この言葉の冒頭に出てくる“宁”という字、よく使われますね。2つの選択肢の内の1つを選ぶということを表す字です。例えば“宁A不B”(後半は“不”に限らず否定の意味を表す字ならOK)のようにして「AはしたとしてもBはしない」とか「BするくらいならむしろAする」というような感じです。
今回ご紹介した曹操の言葉をもう一度見てみましょうか。
宁我负人,毋人负我
“我负人”することはあっても“人负我”するのは許さない、ということです。後半の“毋”は「お母さん」のことではなく「~することなかれ」という意味です。
以前、上海の地下鉄の駅に書かれていた標語らしきものをご紹介しましたが、同じような構造の標語でした。もう一度見てみましょう。
宁等一列车,不抢一扇门
nìng děng yí liè chē bù qiăng yí shàn mén
列車を一本待つことになったとしても、ドアに我先に殺到するようなことはしない。
(我先にドアに殺到するくらいなら、むしろ次の列車を待つ)
前半で“宁”、後半に“不”があります。同じような構造ですよね?
こういった標語やことわざのような言葉でなくても、普通の話し言葉でも使います。その場合は“宁”1文字ではなく“宁可 nìng kě”や“宁愿 nìng yuàn”というふうに言います。後半も“不”だけではなく“也不~”“决不~”のようにします。例えば:
我宁可挨打,也不撒谎。
wŏ nìng kě ái dă, yě bù sā huăng
私は殴られても、嘘なんか言わない。
(嘘を言うくらいなら、むしろ殴られてやる。)
ちょっと捉えにくいかもしれませんが、“宁”のついているフレーズのほうを選ぶのだと覚えておくと、大きく意味を取り違えることはありませんよね。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本