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翻訳コラム

COLUMN

第407回大雑把な面も

2018.11.28
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

大雑把な面も

前々回のブログで、中国語は動詞の表現が豊かだ、というようなことを書きました。

読んでいない人もいるかもしれませんので、簡単に振り返りますと、例えば日本語で「切る」と言う動作は、中国語では少なくとも“切(包丁などで薄く切る)”“砍(斧などで叩き切る)”“剪(ハサミでチョキチョキ切る)”の3つの言い方があり、切る時の道具や動作の様子によって使い分けているようだ、という話でした。

他にも楽器を「弾く」は、ピアノやギターなら“弹”、バイオリンや二胡なら“拉”のように使い分けますね。

で、最後に「着用する」という意味の“穿”は日本語よりも広く使われる(シャツを着る、ズボンを穿く、靴を履く、すべて中国語では“穿”を使う)が、“穿”という動詞の元の意味「うがつ、貫く」が生き生きと息づいているなと思った、ということを書きました。

すると、ある読者の方からご感想をいただきました。色々なことが書いてあったのですが、「帽子をかぶる」ということについて書いてくださっていました。

「帽子をかぶる」は中国語ではどう言うか知っていますか?

戴帽子
dài mào zi

そう、“戴 dài”という動詞を使うのです。

この字を日本の漢和辞典で調べてみると、どうも元々は「頭の上にのせる」という意味のようですね。そこから日本では「おしいただく」「いただく」「もらう」という方向に発展したようです。

ですから、中国語で「帽子をかぶる」を“戴帽子”と言うのも、「頭にのせる」と思えば非常に納得です。

でもこの動詞“戴 dài”は不思議なことが起こります。

帽子だけでなく、アクセサリー類はすべて“戴 dài”、メガネも手袋も“戴 dài”なのです!

少なくとも手袋は“穿”であるべきでは?と思うのですが、まぁ仕方ないですね~。靴下は“穿”なのに~(笑)。

そんなことを考えていると、結構中国語も大雑把なことがあるなと思い始めました(笑)。

例えば球技。

ほとんどの球技で動詞は“打 ”を使いますね。

卓球(乒乓球 pīng pāng qiú)やテニス(网球 wăng qiú)、バドミントン(羽毛球yŭ máo qiú)、野球(棒球 bàng qiú)のように、ラケットやバットで球を打つようなもの、バレーボール(排球 pái qiú)のように手でボールを打つものについては、“打 ”でも全然違和感ありませんね。

でもバスケットボール(篮球 lán qiú)やハンドボール(手球 shŏu qiú)のように、ボールを打つわけでない場合でも“打 ”を使います。まぁでもこれらはボールを床や地面にたたきつけることがありますから、“打 ”でもいいかもしれませんが、ボウリング(保龄球 băo líng qiú)も“打 ”です。

どの球技もそれなりに特徴的な動きがありそうですから、それをうまく動詞で表現できなかったのでしょうか。ちょっとがっかり(笑)。

あと、武道も“打 ”ですね。まぁ、主に手を使って攻撃するのですから“打 ”でもおかしくありませんが、これは?

打太极拳
dă tài jí quán
太極拳をする

あまり何かを打ったり叩いたりしているイメージはありませんが、“打 ”なんですねぇ。

いっそ“打 ”は「打つ、叩く」という意味で使われているわけではないと考えるべきですね。理屈ではなく、あきらめて覚えましょうか(笑)。

では、“打 ”の面白い使い方をいくつかご紹介します。

打麻将
dă má jiàng
麻雀をする

打扑克
dă pū kè
トランプをする

打气
dă qì
(タイヤなどに)空気を入れる

打水
dă shuĭ
水(お湯)を汲む

動作に応じて細かく言い分ける時もあるかと思うと、“打 ”のように守備範囲の広い(大雑把な)動詞もあるのですね~(笑)。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本