第407回大雑把な面も
大雑把な面も
前々回のブログで、中国語は動詞の表現が豊かだ、というようなことを書きました。
読んでいない人もいるかもしれませんので、簡単に振り返りますと、例えば日本語で「切る」と言う動作は、中国語では少なくとも“切(包丁などで薄く切る)”“砍(斧などで叩き切る)”“剪(ハサミでチョキチョキ切る)”の3つの言い方があり、切る時の道具や動作の様子によって使い分けているようだ、という話でした。
他にも楽器を「弾く」は、ピアノやギターなら“弹”、バイオリンや二胡なら“拉”のように使い分けますね。
で、最後に「着用する」という意味の“穿”は日本語よりも広く使われる(シャツを着る、ズボンを穿く、靴を履く、すべて中国語では“穿”を使う)が、“穿”という動詞の元の意味「うがつ、貫く」が生き生きと息づいているなと思った、ということを書きました。
すると、ある読者の方からご感想をいただきました。色々なことが書いてあったのですが、「帽子をかぶる」ということについて書いてくださっていました。
「帽子をかぶる」は中国語ではどう言うか知っていますか?
戴帽子
dài mào zi
そう、“戴 dài”という動詞を使うのです。
この字を日本の漢和辞典で調べてみると、どうも元々は「頭の上にのせる」という意味のようですね。そこから日本では「おしいただく」「いただく」「もらう」という方向に発展したようです。
ですから、中国語で「帽子をかぶる」を“戴帽子”と言うのも、「頭にのせる」と思えば非常に納得です。
でもこの動詞“戴 dài”は不思議なことが起こります。
帽子だけでなく、アクセサリー類はすべて“戴 dài”、メガネも手袋も“戴 dài”なのです!
少なくとも手袋は“穿”であるべきでは?と思うのですが、まぁ仕方ないですね~。靴下は“穿”なのに~(笑)。
そんなことを考えていると、結構中国語も大雑把なことがあるなと思い始めました(笑)。
例えば球技。
ほとんどの球技で動詞は“打 dă”を使いますね。
卓球(乒乓球 pīng pāng qiú)やテニス(网球 wăng qiú)、バドミントン(羽毛球yŭ máo qiú)、野球(棒球 bàng qiú)のように、ラケットやバットで球を打つようなもの、バレーボール(排球 pái qiú)のように手でボールを打つものについては、“打 dă”でも全然違和感ありませんね。
でもバスケットボール(篮球 lán qiú)やハンドボール(手球 shŏu qiú)のように、ボールを打つわけでない場合でも“打 dă”を使います。まぁでもこれらはボールを床や地面にたたきつけることがありますから、“打 dă”でもいいかもしれませんが、ボウリング(保龄球 băo líng qiú)も“打 dă”です。
どの球技もそれなりに特徴的な動きがありそうですから、それをうまく動詞で表現できなかったのでしょうか。ちょっとがっかり(笑)。
あと、武道も“打 dă”ですね。まぁ、主に手を使って攻撃するのですから“打 dă”でもおかしくありませんが、これは?
打太极拳
dă tài jí quán
太極拳をする
あまり何かを打ったり叩いたりしているイメージはありませんが、“打 dă”なんですねぇ。
いっそ“打 dă”は「打つ、叩く」という意味で使われているわけではないと考えるべきですね。理屈ではなく、あきらめて覚えましょうか(笑)。
では、“打 dă”の面白い使い方をいくつかご紹介します。
打麻将
dă má jiàng
麻雀をする
打扑克
dă pū kè
トランプをする
打气
dă qì
(タイヤなどに)空気を入れる
打水
dă shuĭ
水(お湯)を汲む
動作に応じて細かく言い分ける時もあるかと思うと、“打 dă”のように守備範囲の広い(大雑把な)動詞もあるのですね~(笑)。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本