第408回どのよう
某大学で中国語の授業を持たせていただいています。
大学生に中国語をお教えするのは、楽しいのは楽しいのですが、中国語専攻の学生ではないので、中国語は仕方なく勉強しているという人が多く、結構成績のよい人もあまり一所懸命ではありません(笑)。
そのせいか、そういう理由ではないのか、知りませんが、中国語の単語を覚える時にどうもみなさん日本語に頼りすぎというか、表面的というか、なんというか(苦笑)。
単語の意味を日本語で覚えるのは別にいいのですが、その単語の機能まで覚えているかどうかというと、どうも怪しい。しかしそれこそが大事なのではないかなと思うわけです。
例えば、英語のbe動詞。isとかamとかareは、よく「です」という意味だと書いてあったりします。中国語の“是 shì”もそうですね。
でも、日本語の「です」は断定を表す「だ」の丁寧な言い方で、英語のbe動詞や中国語の“是 shì”の本来的な意味とはちょっと違う気がします。
英語のbe動詞や中国語の“是 shì”の本来の意味は、2つのモノやコトが「イコール」の関係であることを表すのですよね。
そのことを覚えず、単に「です」と覚えていると、色々困ったことが起こります。例えば「彼は忙しいです。」というのを中国語で言いたい時、「です」という言葉があるからと言って“是shì”を使うのは、あまり自然ではありません。ふつうは使わなくてもいいですよね。
??他是很忙。
↓
○他很忙。
意味を単に日本語で覚えるだけでなく、機能もきちんと覚えないといけないのです。語学が苦手な人は、そういうことができていないことが多いのではないかなと推測します。
先日、某大学で期末試験を行ったのですが、日文中訳の問題でちょっと驚いたことがありました。
テキストに出てきた文をそのままとりあげ、僕が日本語に訳し、それを学生たちに中国語に訳させたのですが、そのうちの1つがこんな文でした。
「アメリカにはどのような特別な風俗習慣がありますか?」
答えは、“美国有什么特别的风俗习惯?”でいいのですが、、、
不思議なことに“什么”ではなく“怎么”を書いている学生が結構たくさんいたのです。
“什么”と“怎么”、機能が全く違いますよね。簡単なところで言うと、“什么”は名
詞にかかって「どんな、何の」、“怎么”は動詞にかかって「どのように」。他の意味・用法もありますけど、あまり僕の中で両者が似通っていて困ったような経験はこれまでありませんでした。だから、学生たちが間違えて“怎么”を書いていたのは、正直ショックでした。
でもまぁ、試験の答え合わせをした日はその件についてはすっかり忘れていて(笑)、“怎么”ではなく“什么”を使うのはなぜなのかを解説しなかったのですが、授業後にある学生が質問しに来てくれました。どうして“怎么”がダメなのかと。
僕は“怎么”は動詞にかかるからここではおかしいということを説明したのですが、彼女は「え?でも、“怎么”って『どのような』ですよね?」と。
僕「いやいや、『どのように』だよ。」
彼女「だから、『どのよう』ですよね?だったら“怎么”じゃないんですか?」
おお、やっとわかった。彼女を含む多くの学生は、“什么”は「何、どんな」であって「どのような」とは思っていないようなのですね。「どのよう」と書いてあったら「どのような」であろうと「どのように」であろうと“怎么”だと思っていたようです。
そうではなく、名詞にかかるのか動詞にかかるのかという「機能」で覚えてほしいのですよね~。
結局色々言ったのですが、彼女には「機能で覚える」というのはあまり響かなかったようで、「ようするに『どのような』は“什么”で『どのように』は“怎么”ってことですよね?分かりました。」と言って去っていきました。
まぁ、「どのように」と「どのような」の違いが分かってもらえたようなので、一歩前進ですかね(笑)。
今後はこういうことも考慮しながら授業しなければならないなと感じた瞬間でした。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本