第409回日本人だってひどい(笑)
多くの日本育ちの人は、きっと小学生時代に漢字ドリルや漢字テストに悩まされたことでしょう。
僕ももちろん例外ではありません。特に小学校の先生ってトメやハネまできちんと書けていないと容赦なく「×」をつけますから、気が気ではありませんでしたよね!(笑)。
その反動なのか、僕はずっと漢字ってあまり好きではありませんでした。そんな僕が漢字ばっかりの中国語に興味を持つようになるとは、人生って分かりませんね。
僕のことはさておき、みんなきっと漢字の習得には苦労したはずなのに、日本育ちの人って結構漢字にこだわりがありますよね。これがとても不思議です。
たとえば「わたなべ」という苗字の人ってとても多いですが、漢字の書き方は多種多様です。「渡辺」「渡邊」「渡邉」…。
それぞれ「うちはこの字です」というふうにおっしゃって、違う字を書いていると怒られることすらあります。全部もとは同じ字であるにもかかわらず!
そのくらい漢字にこだわりのある人たちですから、中華人民共和国で使われている「簡体字」を見ると、結構多くの日本人が「ひどい」「なげかわしい」と嘆き、非常に不評です。
みなさんはどうですか?
日本人がよく「ひどい」というものとしては、例えば“后”という字がありますね。
みなさんもご存じでしょうが、この字はもともとは「きさき」という意味です。しかし簡体字では「後」という字としても使われます。
つまり簡体字の“后”という字には「きさき」と「後ろ」という2つの意味が与えられているのです。どちらの字も中国語では発音が全く同じだから(いずれも「hòu」)、画数の少ない“后”で代用しようという考えでしょうか。
これは日本の人もびっくりですね。
こういう例は結構あります。「穀物」の「穀」という字、画数が多くて書きにくいからでしょうか、同じ音の“谷”という字を使って代用しています(発音はいずれも「gŭ」)。つまり「穀物」のことは中国語ではこう書きます。
谷物
gŭ wù
びっくりですよね。
こういうことを知ると、日本の人はよく「漢字が大事にされていない。嘆かわしい。」と言って悲しむのですね。まぁ、確かにそうかもしれませんが。。。
でも日本だって結構なことやってますよ(笑)。
例えば「横浜」の「浜」という字。
もともとは「濱」と書きました。それを日本では「浜」、簡体字では“滨”と書いています。
日本の略し方がどうしてひどいと思うかというと、実は簡体字には(というより昔からの形のようですが)“浜”という形の漢字があるのですよ!
浜
bāng
(小川という意味があるそうです)
「後」と“后”は発音が同じだからまぁね、一応筋は通っていますが、「濱(滨) bīn」と“浜 bāng”は意味も発音も全然違います。ひどくないですか~?(笑)
他にも「芸」という字が同じ状況です。日本では「藝」という字の簡略化された文字として「芸」という字を使っていますね。でももともと「芸」という形の漢字があるのです!
芸
yún
(油菜や菜種というような意味を持つようです)
簡体字ではちゃんと区別していますよ。「藝」の方は“艺”という字で表します。
う~む、日本の状況、嘆かわしいですね!(笑)
あと、これは中国でも同じですが、「日食」「月食」は昔は「日蝕」「月蝕」と書きました。「蝕」という字は「むしばむ」「虫が食う」ということで、「食」とはちょっと意味が違うのですが、日本語も中国語も発音が同じ(日本語「しょく」、中国語「shí」)ですし意味も似ているので、簡単な「食」を使うようになったようです。
でも、中国では「蝕」の字を「食」と書くのは基本的に“日食”“月食”の時だけです。他の単語はきちんと“蚀”を書いています。例えば日本語でいう「侵食(しんしょく)」、中国語では“侵蚀 qīn shí”と書いています。
どうですか?意外と日本語も、やっちゃってますよね!(笑)
中国語の方がきちんとポリシーを持って略している気すらします。
こうやって考えてみると、台湾の人はすごいですね~。基本的に略字ではなく簡体字でもなく、昔ながらの繁体字を使っているのですから!
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本