翻訳コラム

COLUMN

第429回“道”や“等”

2019.05.15
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

今日は小さい話。まずは“道”という漢字について、お話したいと思います。

この字は日本語では「みち、道路」の意味ですね。中国語でも同じです。もともとは生首を携えて歩く様子を表した漢字だそうで、おどろおどろしいですね~。もちろん今ではそんな風習は無いですし、この字にそんな恐ろしいイメージはありません。

でもこの字、中国語では、ちょっと意外な意味で使われます。日本ではなじみのない意味です。

例えば:

老师说道:“~~~~。”
Lăoshī shuō dào
先生がおっしゃるには「~~~~」

この場合の“道”は、「みち」の意味ではありませんね。「先生は道のことを話された」という意味では決してありません。

この“道”という字には動詞の意味があり、「言う、話す」というような意味なのです。

まぁ現代中国語では、少なくとも話し言葉では、あまり出てこないですが、文章語ではまだまだ出てきます。それに四字成語などではよく見ます。例えば:

胡说八道
hú shuō bā dào
でたらめを言う

能说会道
néng shuō huì dào
弁が立つ、話がうまい

说三道四
shuō sān dào sì
無責任にアレコレ論じる

以上は全て“道”という字を「言う、話す」といった意味の動詞として使っていますね。

なじみがないでしょう?(笑)

でも、高校で国語を教えている友達がいいことを教えてくれました。

漢文の世界でもこの字が「言う、話す」という意味でよく出てくるのだそうですが、生徒たちに「どうして『道』が『言う』っていう意味になるんだよ!」と詰め寄られた時(?)にこんな単語を見せて納得してもらうそうです。

報道(ほうどう)
(中国語でも“报道 bàodào”)

確かに、この「道」は「みち」の意味ではないですね~。「道を報せる」という意味でないことは、僕でも分かります。「報せて言う」ということでしょうか。僕もこの話を聞いて「ああ、『道』という字に『言う、話す』という意味が確かにあるんだな」と納得しました(笑)。

同じように、日本語には入っていない意味でよく使う漢字として、“等”がありますね。

日本語では「等」という字は「など」と「ひとしい」という意味しかありませんよね?

中国語でももちろんこの2つの意味で使われるのですが、もう1つ、動詞の意味があります。

皆さんご存知ですよね?そう、「待つ」という意味です!

たとえば:

我在这儿等你。
Wŏ zài zhèr děng nĭ.

これを中国語初心者に訳してもらうと、時々「私はここではあなたに等しい」みたいなことを言ってくれたりします。でも残念ながらそうではありませんね。正しくは「私はここであなたを待ちます。」です。

できるだけ覚えることを少なくしたいと思っている生徒さんなんかだと、「『待』という漢字は中国語では『待つ』という意味では使えないんですか?使えるんならそっち使うようにしたいんですけど。」と言ってきます(笑)。

でも残念ながら“待 dài”は単独では(少なくとも標準語では)ほとんど使わないんですよねぇ。“等待 děngdài”という2文字の動詞としてなら使えますが。。。

仕方ないからあきらめて覚えてくださいね~とお願いしました(笑)。

日本語も漢字を使いますが、意味はまったく同じとは限らないので、皆さんも気をつけて覚えていってくださいね。意味がまったく同じ場合はむしろ少ないと思っておいてちょうどいいくらいだと思います。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本