翻訳コラム

COLUMN

第449回久しぶりに三国志

2019.10.02
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

このところバタバタしていてネタが思いつかないので(苦笑)、久しぶりに三国志に助けてもらおうと思います。

三国志の話題を出す時はたいてい“歇后语xiēhòuyŭ”をご紹介しています。三国志関連の言い回しとしては、四字成語とかももちろんあるのですが、“歇后语”がとても多いです。“歇后语”は掛け言葉のようなものです。今日も1つ、三国志のエピソードとともに“歇后语”を紹介しようと思います。

今日皆さんに紹介したい“歇后语”はこちら!


曹操杀华佗
Cáo Cāo shā Huà Tuó
曹操が華佗を殺す

その心は?
讳疾忌医
huì jí jì yī
病であることを隠し、医者の治療を嫌がる
(誤りや欠点を隠し、指摘されるのを嫌がる)

華佗ってご存知でしょうか?三国時代のお医者さんです。実在の人物かどうか分かりませんが、三国志の中に何度か登場しますね。本当かどうか分かりませんが、麻酔を使って外科手術をすることができたと伝えられています。

例えば、劉備の義弟である関羽、腕に矢傷を負い、毒矢だったため腕がひどく腫れてしまったことがありましたが、華佗がやって来て、傷口を刀で切り開き、毒に侵された部分の骨を直接ゴリゴリと削るという治療を行い、見事関羽を全快させたということがありました。

そんな華佗が、ある日曹操に呼ばれます。

曹操は頭痛持ちで、時として何もできないほど痛むというので、天下の名医と言われる華佗に診てもらおうを思ったのです。

華佗は曹操を診察し、病巣は脳にある、と言います。そして、麻酔を施し死んでいるかのような状態にして、その間に頭を切り開き悪いところを取り除けば、完治する、と進言します。

しかし三国時代です。関羽の腕の治療ならいざ知らず、開頭手術ですよ!そりゃぁビビりますよね(笑)。天下の英雄、曹操とあってもさすがに驚き、「さてはキサマ、俺を暗殺しに来たな?」と疑い、華佗を投獄し、最終的に殺してしまうのです。

上でご紹介した歇后语“曹操杀华佗――讳疾忌医”とは、このエピソードのことを指しています。

曹操は病気であることを隠したりしたわけではありませんが、医者の見立てを疑い、治療を受けなかったわけですね。結果、曹操はこのあと間もなく死んでしまいます。素直に医者の言うことを信じ、病気と向き合って、医者の治療を受けていたら、もしかしたらもう少し長生きできたかもしれません。

同じように、自分の欠点や誤りを認めず、指摘されるのを嫌がったら、いつかその人は自滅して行くでしょう。ということで、今ではこの歇后语“曹操杀华佗――讳疾忌医”は、病気のことだけでなく欠点や誤りについても言うようになったようです。

まぁでも、今の時代ですら手術は怖いですし、まして開頭手術では、自分を殺しに来たと思ってしまっても仕方ないかもしれません。華佗のように時代の先を行きすぎるのも、いいことばかりではないようですね~。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本