第450回中国語は論理的
僕を含め、中国語でメシを食っている日本人や日本語でメシを食っている中国人はきっと日常的に感じていると思いますが、日本語ってあまり論理的ではないことが多いですねぇ。論理が飛躍していても、つながらない部分は聞いている人が勝手に想像して(創造して?)繋ぎながら話を聞いてくれます。場合によってはわざと大事なところを抜いておいて、相手に「忖度」させることすらあるという、難しい言語なのですよね、日本語って(苦笑)。
たとえば、四字熟語「一石二鳥」。元は英語らしいですね。そしておそらく日本人が漢語風に訳し、今では中国でも使われることがあるというこの言葉ですが、作り方は中国的ではないなぁと思いますね。
つまり、「一石(を使って)二鳥(を得る)」というような感じで、相手に想像させる部分(カッコ内の部分)が多いのです。もっと具体的に言うと、動詞部分が抜けているのです。動詞部分、つまり結論部分が抜けていて、そこは相手が想像でつなぐわけです。
それに対して、ほぼ同じ意味の「一挙両得」は、「1つ行動を起こすことで2つのことを得る」という感じで、相手に想像させる部分がほとんどありません。結論部分まで意味がしっかり表現されています。漢語はこうでなくちゃ!(笑)
先日、富山の薬売りの話を取り扱った文章を読んでいると、こういう言葉が出てきました。
先用後利
(せんようこうり)
これは、先に客に商品を使わせて、後で使った分だけ集金するシステムのことで、富山の薬売りの「置き薬」のやり方を言っているそうです。
しかし、この四字熟語、絶対中国人が作ったのではないだろうなと思うのですが、いかがでしょうか?
「先A後B」というような構造の四字熟語はもちろん中国語にもよくありますね。たとえば中国の地下鉄なんかでよく見かけるやつ。
先下后上
xiān xià hòu shàng
先に下りて、その後乗る
(降りる人が先、乗る人が後)
これは単純明快、とてもわかりやすいですね。論理も一貫していますし、熟語の構造も明快です。
しかし先ほどご紹介した「先用後利」はどうでしょう。辞書などの説明では「先に使わせて」と書いてあります。つまり、前半2文字「先用」は「先に使う」ではなく「先に使わせる」なのです!
いや~、ふつう「先用」と書いてあれば「先に使う」ですよね?勝手に使役にして解釈しろなんて、ちょっと、なんというか、聞き手に甘えすぎ(笑)。
また、後半2文字部分「後利」の解釈は「後に集金する」ということですから、つまり「後から利益を得る」ということだと思うのですが、「利」は名詞ですから結論部分「得る」が省略されていて聞き手に想像させる、あの「一石二鳥」パターンを使っているわけです。
つまり、前半は動詞表現だけど勝手に使役の意味にしていて、後半は名詞表現だけで聞き手に想像させている。本当に聞き手にゆだねすぎですね(苦笑)。
僕はこの文章の中国語訳をチェックする仕事をしていたのですが、翻訳者様はこの言葉を訳すとき、やはりそのままではなくこんなふうに訳していました。
先用后付
つまり「先に用いて、後で支払う」ということでしょうね。
これならはっきりわかります。前半も後半も客目線ですね。勝手に使役に解釈しないと意味が通らない、みたいなことはやはり中国人はしないのです。そして前半も後半も動詞表現にする。これがやはり中国語なのだなと思いました。
逆に言うと、日本人って漢語を見ると適当に送り仮名部分を意味が通じるように繋いで解釈するのですね。漢文を書き下し文にする要領なのでしょうか(笑)。
こんなことを考えていると、ちょっと前にはやった「KY」という言葉を思い出しました。
KY(くうきよめない)
「くうき」はまぁいいとして、「Y」だけで「よめない」はどうでしょう(笑)。否定の部分がわかるように「KYN」とかにするならまだわかるけど。
日本語って、漢語にしても、アルファベットで作った略語にしても、あまり論理的ではなく、適当に字を並べて、省略部分を勝手に補ってつないでいく、特殊技能を要求される言語なのだなと、改めて実感しました(笑)。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本