第455回主語はその文のテーマ
今日は中国語の主語について少し語ってみたいと思います。
まぁ何度も本欄で書いているかとは思うのですが、中国語で「主語」と呼ばれるものは英語をはじめとする西洋語で言う「主語」とはだいぶ違います。
英語だと、「主語」と呼ばれるものは必ず「動作主」です。その文の中の動詞が表す動作をする人が主語とされ、多くの場合文頭に立ちます。
それに対して中国語の「主語」は、動作主とは限りません。話者がその時いちばん言いたいテーマ、それが中国語では文頭に立ち、それが主語と呼ばれます。
例えば:
例1我去过中国。(私は中国に行ったことがある。)
Wŏ qùguo Zhōngguó.
I have been to China.
これはごくごく普通の文ですね。主語“我”は“去(行く)”という動作をする人、つまり動作主ですから、英語でも同じ構造の文が出来上がります。では、これは?
例2中国我去过。(中国には私は行ったことがある。)
例1で目的語扱いだった“中国”が文頭に立ちました。日本語も中国語と構造が似ていますね。「中国には」の部分が文頭にあります。こういうの、英語ではどう言うんでしょうかね?僕は英語は専門ではないのでわかりませんが、少なくとも「China I have been to.」とは言わないのではないでしょうか?
「中国には」という部分、この文の中ではテーマ、主題です。日本語だとやはりこの文の主語は「私は」の部分だと解釈すると思うのですが、中国語では文頭に立つことができればそれが主題であり、主語と呼ばれるのです。
さて、ここで、次の2つの日本語の文を見比べてみてください。
東京タワーのそばには増上寺があります。
増上寺は東京タワーのそばにあります。
この2つの文の違いについて、日本語ネイティブは結構無頓着だなと思うのですが、皆さんはいかがでしょうか?
前者は「東京タワーのそば」という場所が話題になっている時に言うセリフですね。
「ねぇねぇ、東京タワーに行ったあとはどこに行く?」
「う~ん、あそこらへんって他に何があるのかな?」
「東京タワーのそばには、、、増上寺があるよ!」
という感じの会話が想像できますね。つまり、話題の中心は「東京タワーのそば」。
それに対して後者はどうでしょう?今度は「増上寺」が話題になっています。
「今度さぁ、増上寺に行ってみたいんだよね。」
「そうなの?じゃ行ってみようか。ところで増上寺ってどこにあるの?」
「うん、よく分からないんだけど、増上寺は東京タワーのそばにあるみたいだよ。」
という感じの会話が想像できます。つまり、話題の中心は「増上寺」。
日本語だとどちらも「ある」という動詞を使っているので違いが分かりにくいですが、中国語では主題が違えば使う動詞も違ってきますので、違うことを言っているんだというのがはっきりわかります。
前者:东京塔的旁边有增上寺。
後者:增上寺在东京塔的旁边。
“有”と“在”の違い、よく混乱している人がいますが、主題の違いという観点から見てみると、もしかすると頭が整理されるかもしれませんね。試してみてください。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本