翻訳コラム

COLUMN

第455回主語はその文のテーマ

2019.11.27
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

今日は中国語の主語について少し語ってみたいと思います。

まぁ何度も本欄で書いているかとは思うのですが、中国語で「主語」と呼ばれるものは英語をはじめとする西洋語で言う「主語」とはだいぶ違います。

英語だと、「主語」と呼ばれるものは必ず「動作主」です。その文の中の動詞が表す動作をする人が主語とされ、多くの場合文頭に立ちます。

それに対して中国語の「主語」は、動作主とは限りません。話者がその時いちばん言いたいテーマ、それが中国語では文頭に立ち、それが主語と呼ばれます。

例えば:

例1我去过中国。(私は中国に行ったことがある。)
Wŏ qùguo Zhōngguó.
I have been to China.

これはごくごく普通の文ですね。主語“我”は“去(行く)”という動作をする人、つまり動作主ですから、英語でも同じ構造の文が出来上がります。では、これは?

例2中国我去过。(中国には私は行ったことがある。)

例1で目的語扱いだった“中国”が文頭に立ちました。日本語も中国語と構造が似ていますね。「中国には」の部分が文頭にあります。こういうの、英語ではどう言うんでしょうかね?僕は英語は専門ではないのでわかりませんが、少なくとも「China I have been to.」とは言わないのではないでしょうか?

「中国には」という部分、この文の中ではテーマ、主題です。日本語だとやはりこの文の主語は「私は」の部分だと解釈すると思うのですが、中国語では文頭に立つことができればそれが主題であり、主語と呼ばれるのです。

さて、ここで、次の2つの日本語の文を見比べてみてください。

東京タワーのそばには増上寺があります。
増上寺は東京タワーのそばにあります。

この2つの文の違いについて、日本語ネイティブは結構無頓着だなと思うのですが、皆さんはいかがでしょうか?

前者は「東京タワーのそば」という場所が話題になっている時に言うセリフですね。

「ねぇねぇ、東京タワーに行ったあとはどこに行く?」
「う~ん、あそこらへんって他に何があるのかな?」
「東京タワーのそばには、、、増上寺があるよ!」

という感じの会話が想像できますね。つまり、話題の中心は「東京タワーのそば」。

それに対して後者はどうでしょう?今度は「増上寺」が話題になっています。

「今度さぁ、増上寺に行ってみたいんだよね。」
「そうなの?じゃ行ってみようか。ところで増上寺ってどこにあるの?」
「うん、よく分からないんだけど、増上寺は東京タワーのそばにあるみたいだよ。」

という感じの会話が想像できます。つまり、話題の中心は「増上寺」。

日本語だとどちらも「ある」という動詞を使っているので違いが分かりにくいですが、中国語では主題が違えば使う動詞も違ってきますので、違うことを言っているんだというのがはっきりわかります。

前者:东京塔的旁边有增上寺。
後者:增上寺在东京塔的旁边。

“有”と“在”の違い、よく混乱している人がいますが、主題の違いという観点から見てみると、もしかすると頭が整理されるかもしれませんね。試してみてください。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本