第460回yinとyingとyongの秘密
皆さんは注音符号ってご存知ですか?
現在中国語を日本で習っている人はほぼ全員大陸風の中国語を習っていると思いますので、発音記号はピンインを使っていますよね?アルファベットを使って表記する、アレです。
でも中国語の発音を表記する記号は、実は他にもあります。それが「注音符号」です。漢字の一部を使って作ったような、ハングルのような、仮名のような、そんな形の記号です。今でも一部の辞書には書いてあったりしますよね?『现代汉语词典(現代漢語詞典)』にも載っていますね。大陸では今ではほとんど使われていませんが、実は台湾ではふつうに使われています。パソコンやスマホで文字を打つ時もピンインのようなアルファベットではなく注音符号で打ち込むそうですよ!
僕はこの注音符号というものとはほぼ無縁のままここまで来ました。でも、注音符号を読める人によると、ピンインよりも合理的だとか。だから、ちょっと興味はあったんですよねぇ。
最近友達(日本人)が日本語教師になって台湾に赴任しました。彼はちょっと中国語もできるようになりたいらしいのですが、仕事が忙しすぎて習いに行けないと嘆いていました。しかし最近、手始めに注音符号を覚えてみることにした、と言って、僕にもテキストを見せてくれました。
そしてそして!色々ビックリしました!
子音の記号と母音の記号をくっつけて表示するという方式自体は我々の使っているピンインと同じことなのですが、重母音や鼻母音に驚きの発見がありました。
まず、子音と6つの単母音は独立した記号があるのですが、重母音については「ai」「ei」「ao」「ou」だけしか記号がありません。他の重母音「ia」「ie」「ua」「uo」「üe」「iao」「iou」「uai」「uei」は単独の記号はなく、既存の記号を組み合わせて表記します。
「iou」が子音と結びつくと「-iu」と表記したり、「uei」が子音と結びつくと「-ui」と表記するような不思議な現象は注音符号では起こりません。これは安心ですね!
鼻母音に至ってはもっと不思議なことが起こっています!
ピンインにおいて、鼻母音は結構たくさんありますね。並べてみると:
an ang en eng in ing ian iang uan uang uen ueng üan ün ong iong
しかし注音符号では独立した記号を与えられているのは「an」「ang」「en」「eng」の4つだけです。他の鼻母音はこの4つの母音の前に他の記号をくっつけて表すのです。
たとえば「ian」は「i」を表す記号に「an」を表す記号をくっつけます。
ian = i + an
iang = i + ang
uan = u + an
uang = u + ang
uen = u + en
(ピンインだと子音と結ぶと「-un」と表記されますが、注音符号だとそんなことは起こりません!)
ueng = u + eng
üan = ü + an
これらに関してはピンインと全く同じ組み合わせなので納得がいくのですが、これら以外の鼻母音はかなり驚きです。
まず「in」ですが、注音符号では「i」を表す記号プラス「en」を表す記号で表記されます。つまりアルファベットで並べてみると「ien」という感じでしょうか。え~?中国の人、そんなふうに発音してますかね?
「ing」は「i」+「eng」です。これはかなり納得です。確かにこんなふうに聞こえます。我々も「ing」は単に「イン」ではなく「イ」と「ン」の間に何か音が介在しているように聞こえるよう発音すべきだと常々思っていましたが、注音符号ではしっかりそのように表記していたとは!
更に驚いたのは「iong」です。
これ、注音符号ではなんと「ü」+「eng」なんです!
え~?なんかかなりショックです(笑)。ピンインを作った人はどうして「üeng」という発音を「iong」と綴ることにしたのでしょうか。。。中国語の発音に関する謎がまた少し深まりました(苦笑)。
そして一番びっくりしたのは、「ueng」と「ong」を同じ綴り「u + eng」と書くことです。
ピンインでは全く違う音として習うのですが、、、あんまり深入りしない方がいいのかも(笑)。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本