翻訳コラム

COLUMN

第470回時間の言い方

2020.06.24
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

僕の関わっているNHKWORLDの中国語放送では、つい最近まで月日の言い方は次のようになっていました。

書き方:○月○日
読み方:○月○号

つまり、ネット上で公開するニューステキストは“日”と書きますが、アナウンサーが読む音声は“号 hào”としていました。

ところが、数か月前にこの方針が変わりました。テキストと音声を同じにしようということになったのです。つまり・・・

書き方:○月○日
読み方:○月○日

そうなんです。アナウンサーが読む音声も“日 ”となったのです。

いやぁ、僕もキャスターとして週一回ニュースを読みますが、ニュース原稿の中で“○日”と書いてあっても“○号 hào”と読む癖がついていましたので、大混乱しました(笑)。

それにともなって、実は時間の言い方も変わりました。

例えば5時というのを中国語で言う場合、これまでだと・・・

書き方:5时
読み方:5点(wŭ diăn)

つまり、ニューステキストでは“时”と表記しますが、アナウンサーが読む音声は“点 diăn”と言っていたのです。しかし今は原稿通り読みます。つまり:

書き方:5时
読み方:5时(wŭ shí)

こちらも僕の頭の中で大混乱が起こりました(笑)。

でも、文句言っていても始まりません。先日も自宅でニュース原稿を読む練習をしていました。

そんなとき、ハタと困ってしまったものがありました。

2时

これ、どう言いましょうか。

話し言葉だったら“点 diăn”を使うので、迷うことなく:

两点
liăng diăn

です。皆さんもご存知ですよね?

数字の「2」は“两 liăng”と“二 èr”という2つの読み方がありますね。基本的には、数量や回数を表す時は前者、序数を言う時(順番を言う時)は後者となっています。

二冊の本→两本书 liăng běn shū
二冊目の本→第二本书 dì’ èr běn shū

つまり、時間の表現“~点 diăn”は、順番ではなく数量(というか回数)なのです!

昔、時計代わりに町の鐘や太鼓が鳴っていたそうで、打ち鳴らす回数を1つ2つと数えていたらしいのです。鐘を鳴らす行為が“点 diăn”なのですね。中国語の辞書で“点”を調べると、動詞で「細いものでつつく」というようなことが書かれています。つまり、「鐘を2回ならした。ふたつつきした。」と回数を数えていたので、“点”を使って時間を言う場合、時間は数量扱いなのです。

でも、それは“点”という、鐘を打ち鳴らす動作を表す言葉だからいいのですが、果たして“时”を使って時間を言う時はどうなんでしょう。。。

この“时”には動作は感じられません。ですので、回数を数える量詞扱いにはとうてい見えませんね。だから、2時は“2时 èr shí”と読むのではないかと思っていたら、これが大正解でした。

さて、先ほども書きましたように、今ではNHKの中国語放送のニュースは、時間を言う時全部“时shí”と読んでいるのですが、、、でもこれだと、例えば3時はこう読みます。

3时
sān shí

これって数字の「30(三十 sānshí)」と全く同じ音です!2時から9時まではすべて同じ状況です。

いやぁ、聞き取りにくいですよねぇ(笑)。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本