翻訳コラム

COLUMN

第473回中国語の勉強方法

2020.08.05
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

今日はちょっと趣向を変えて、僕が今までどうやって中国語を勉強してきたか、昔話でもしようかと思います。何か皆さんの参考になれば幸いです。

まぁ、とは言っても僕が中国語の勉強を始めたのは今から30年以上前ですから、今とは時代が違いますので、そのあたりの事情を踏まえながら読んでいただければと思います。

そもそも僕は高校生3年生の1学期までは全く中国に興味を持っていませんでした。日本の近くに中国という大きな国がある、ということくらいしか知りませんでした。そんな僕の目を中国に向かせたのは、吉川英治の『三国志』という小説でした。これにはまってしまって、それまで英語学科志望だったのですが、高校3年生の2学期に急遽中国語学科志望に変更したのです。(大阪外国語大学に行きたいというのは中学のころから思っていました。)

大阪外大の中国語学科に入ったはいいですが、いざ中国語の勉強を始めてみると、いきなり戸惑いの連続でした。

四声、有気音と無気音、-nと-ng、巻舌音、、、日本語にない発音ばかり!

ゲゲゲと思ったのですが、発音のメカニズムを考えながら色々実験や研究をするのがだんだん楽しくなってきました。

そして、漢字1つ1つの発音を覚えていかなければならないことに気付いたので、《新华字典》という小さな辞書を毎日持ち歩き、街中で見聞きする漢字の簡体字表記と発音を調べるのが日課になりました。

電車通学だったので、電車の駅の名前を調べることから始めました。

塚は“冢 zhŏng”か~、口は“kŏu”だね。園は“园 yuán”、田は“tián”。南方はそのまま“南方 nánfāng”という単語があるねぇ。千は“qiān”、里は“lĭ”。阪は“băn”で、急は“jí”。。。

僕がどんな路線で大学に通っていたか、分かる人は分かるかもしれませんね(笑)。

とまぁ、とにかく漢字の音と形を手当たり次第に覚えていきました。人名もたくさん調べました。大学の同学たちの名前は当然ですが、高校の時の名簿を見ながら発音を調べたりしました。楽しかったですね~(笑)。

さて、中国語の学習が少し進むと、暗唱地獄が待ち構えていました。

僕が中国語の手ほどきを受けた先生は、テキスト本文を全部覚えるようにおっしゃったのです!曰く「1年生は暗唱だけやってればいい」(笑)。ちょっと極端な考え方ではありますが、中国語の文法はそんなに複雑ではありませんから、いくつか重要な文法事項だけ踏まえておけば、あとは「あまり細かいことは考えずにとにかく文を覚えろ」ということだったようです。今の時代には合わないかもしれませんが、僕も今は学生たちに暗唱の課題を出しています。本文の一部だけですが(笑)。

半年くらいしたころだったでしょうか。中国人の先生の会話の授業を受けていた時のことです。その日のテキストのテーマは「電話を掛ける」でした。そして先生がおっしゃったのです。中国語でおっしゃったので全部分かったわけではありませんが、多分こういうことをおっしゃいました。

「皆さんはラッキーですよ。だって、僕のところに電話してきたら、いつでも中国語での電話の会話の練習ができるんですから!」

純粋だった僕は真に受けて、その日の夜、先生に電話を掛けました。いや~、緊張しました。先生は日本語がほとんど話せなかったので、僕は先生が“ウェイ(喂)?”と言ってくれるものと勝手に想定して電話したのですが、先生はなんと「はい」とおっしゃいました(笑)。もうパニックです。予定が狂ってシドロモドロ。

でも先生はとても喜んでくれたようで、次の授業の時にとてもほめてくださいました。

当時、周りに中国人なんてほとんどいませんでしたから、先生とお話するのは貴重な機会だったのですね。今は周りにいくらでも中国人がいますから、勇気さえあれば中国語の実践練習のチャンスはアチコチに散らばっていますねぇ。

大阪外大で身につけたことで、今でも直接役に立っているのは、なんといっても発音です。発音そのものの研究や練習もそうですし、中国語であまり使わない漢字の読み方を良く知っているということでよくびっくりされます(笑)。地名や人名で使われる発音を調べたのが役に立っているのかなと思いますねぇ。

長くなってしまったので、また今度機会があれば、紆余曲折を経てまた中国語の世界に戻った僕がどんな勉強をしたのかを書いてみたいと思います。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本