第475回三国志の言葉
2020.09.02
通訳・翻訳家 伊藤祥雄
最近少々多忙にしております。というわけで、今回も三国志に助けてもらいます(笑)。
今日皆さんにご紹介したい言葉(歇后语)は、こちら!
刘备报仇
Liú Bèi bàochóu劉備が敵討ちをする
その心は?
因小失大
yīn xiăo shī dà
小さいことのために大きなものを失う
劉備は若いころに関羽と張飛という豪傑と義兄弟の契りを結びます。いわゆる「桃園結義」です。3人は死ぬときは同じときでありたいと誓ったのです。
そんな3人ですが、劉備が成都に入城し蜀の国を作り、さてこれから天下を狙おうという時に、関羽が荊州で呉に殺されます。
悲嘆にくれ、敵を討つために呉に攻め入ろうとする劉備ですが、同じ義兄弟である張飛以外のすべての人から止められます。関羽が生きている内ならなんとしても呉を討たねばならないが、死んでしまった以上は魏の動きを無視はできないし、順番から言うと魏から討つべきである、と誰もから説得され、仕方なく怒りを抑え込みます。
しかし、暴れん坊で有名な張飛が我慢できるわけがありません。敵討ちをするよう劉備に懇願します。一時は理性で怒りを抑え込んだ劉備でしたが、張飛に懇願されて劉備の気持ちは呉討伐に傾き、ついに討伐軍を出すことを決めます。
喜んだ張飛は、弔い合戦だからということで白装束で出陣するよう部下たちに命令しますが、出発までに全員分をそろえるのは無理ということで、担当者たちが困った末に、なんと張飛を殺して首を持って呉軍に投降します。
3人死ぬときは一緒と誓った桃園結義ですが、結局劉備1人になってしまいました。復讐の鬼と化した劉備は破竹の勢いで呉になだれ込み、連戦連勝。しかし、1つの作戦のほころびから、最終的に劉備軍は大敗を喫してしまうのでした。
劉備のこの時の戦は、義兄弟を殺されたということに端を発しているので、明らかに「私怨」による戦です。大義がありません。英雄たちが戦を始める時は、大義となる理由を探さないといけません。そうでないと一般人民がついてきませんね。
というわけで、この時の劉備の戦の理由は「小さな理由」というわけです。
そしてその小さな理由のために戦を始めて、結局は呉に敗れ、多くの将兵を死なせます。天下統一という最終的な目標も遠くなってしまいました。つまり、「大きなものを失った」というわけです。
冒頭でご紹介した歇后語“刘备报仇――因小失大”とは、このエピソードを指しているのだろうなと思いました。
ちなみに、劉備は大敗を喫した後、白帝城という古城に逃げ込み、ここで寝込んでしまいます。諸葛孔明をはじめ多くの人の反対を押して呉に戦を仕掛けて大負けしたことを恥じ、結局このままこの場で死んでしまうのでした。
劉備と関羽と張飛の3人の桃園結義で意気揚々と始まる三国志ですが、この桃園結義の有名な誓いの言葉“不求同年同月同日生,只愿同年同月同日死。”は、結局果たされることはなかったのですね。以下にこの言葉の発音と意味を書いておきます。三国志ファンとしては覚えたい言葉ですよね(僕だけ?…笑)。
不求同年同月同日生
Bù qiú tóngnián tóngyuè tóngrì shēng
同年同月同日に生まれることは求めないが、
只愿同年同月同日死
zhĭ yuàn tóngnián tóngyuè tóngrì sĭ
ただ同年同月同日に死ぬことを願う。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本