第478回苦手2
中国語の文法は、西洋語の文法と比べると覚えることが少ないし、複雑とは言いにくいですね。もちろん突き詰めていけばかなり難しいのですが、動詞の活用はありませんし、名詞の格変化もありません。それに日本語や英語に似ている側面が結構ありますから、日本で教育を受けてきた人にとってはかなり勉強しやすい言語だと、僕は思っています。
しかし、様態補語は日本語にも英語にも似たような文法がないためか、結構皆さん手こずるような印象です。
今年の僕の生徒さんたちはとても熱心に受講してくれましたが、様態補語についてはちょっと苦手な人が多かったですねぇ~。まぁかくいう僕も、初めて様態補語を習ったときはよく分からないと思ったものです。
様態補語とは、ある動作を行う時の様子や程度を補うものです。「~するのが…だ」という感じですね。例えば「私は歩くのが速い」といったような感じ。
様態補語は、こんなふうに表します。
S+V+得+「様子・程度を表す言葉」
例:我走得很快。
Wŏ zŏu de hěn kuài.
私は歩くのが速い。
動作の様子とか程度を「補う」と書きましたが、実はこの文の一番言いたいところは様子や程度の部分です。だから、訳すときは「速く歩く」ではなく「歩くのが速い」がいいと思います。
さて、ここまでは結構皆さん大丈夫なのですが、様態補語の文に目的語を盛り込む場合に皆さん間違えてしまうのですね。
例えば、「私は中国語を話すのが遅い。」を中国語で言うとどうなるでしょうか?
我说中文说得很慢。(例文1)
Wŏ shuō zhōngwén shuō de hěn màn.
そうですね。記号で表すとこんな感じ。
S+V+O+V+得+「様子・程度を表す言葉」
そう、最初に「主語+動詞+目的語」を言ってしまいます。そしてそのあともう一度同じ動詞を言って、その後ろに“得”と様態補語を並べるのですが、結構しつこく「同じ動詞をもう一度言うんですよ!」と言っているにも関わらず、多くの学生がこんな文を作りました(笑)。
我说中文得很慢。
“得”以下様態補語の部分は動詞とくっつけなければなりません。ですから目的語の後ろに置いてはダメなのですよね。そのために、様態補語を言う前にもう一度同じ動詞を言わなければならないわけです。
同じ動詞をもう一度言うなんて、そんな不経済な!と思う人もいるかもしれませんね。その場合は、1回目の動詞なら省略可です。つまり:
我中文说得很慢。(例文2)
これならスッキリ!
でも人によっては、「これだと『S+O+V…』となってしまって中国語として大丈夫なの?」と思う人もいるようですね。でも、中国語として全然大丈夫です(笑)。
この場合、“中文”は目的語ではなく、2つ目の主語として扱われます。中国語の主語はその文の主題です。つまりまず一番大きな主題として「私」を置き、そのあともう少し焦点を絞った主題「中国語」を次に置くわけですね。
ですから、「1回目の動詞なら省略可」と書きましたが、実は例文1と例文2は少しニュアンスが違うようです。日本語訳に無理にその違いを表してみると、こんな感じでしょうか。
例文1「私は中国語を話すのが遅い。」
例文2「私は、中国語は、話すのが遅い。」
ま、微妙な違いですけどね(笑)。
でもこういう微妙な違いも感じ取れるようになれば、いよいよネイティブの感覚に近づきます。ネイティブがどんな気持ちで話しているのか、僕も感じ取りたいなといつも思っています。なかなか難しいですけどね~。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本