翻訳コラム

COLUMN

第479回

2020.10.28
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

何度か書いたことがあるような気がしますが、伊藤の実家はお寺です。毎年お盆の時期は手伝わなければなりませんが、今年は多分初めて、帰らないお盆となりました。そうです、新型コロナウィルスの影響です。僕は感染者の多い東京に週3回ほど仕事で出かけますので、お盆に高齢者の檀家さんにお会いして万が一うつしてしまったら大変ですから。。。

さて、それはさておき、お盆の名前の由来はご存知でしょうか?諸説あるようですが、よく言われているのはサンスクリット語(梵語)のullambanaという言葉から来ている、というやつです。NHKの「チコちゃんに叱られる」でも前にやっていましたね。

ullambanaというのは「逆さ吊り」というような意味だそうです。亡くなった人が地獄のようなところで逆さ吊りにされているかもしれない、そうならないように供養しよう、ということなのだそうです。

そして中国で漢字を当てられました。

盂兰盆
yú lán pén

日本に入って「うらぼん」と読まれ、字が難しいせいなのでしょうか、省略されて「盆」とか「お盆」と言われるようになったのだそうです。省略大好き日本人、さすがですね~(笑)。

さて、中国経由の言葉ですから、お盆のことは中国語では先ほどの漢字のまま“盂兰盆节 yú lán pén jié”と言いますが、通じないことも多いようです。なんとなく中国の人にイメージをつかんでもらうためには、こんなふうに言えばいいそうです。

鬼节
guĭ jié

日本語の感覚で見てみると、「鬼の日」という感じになりますね(笑)。なんか怖いですね~。

しかし、中国語の“鬼”は日本語の「鬼」とはだいぶイメージが違います。

日本語の「鬼」はご存知、角があって全身赤か青で(?)、トラ柄の褌を締めるかパンツを穿いていて、こわーい顔したイメージですよね?

中国語の“鬼”はそんなはっきりしたイメージではなく、死んだ人とか、幽霊とかのイメージのようですね。日本の「鬼」のような統一されたキャラクターがあるわけではないようです。例えば:

听说他家里常常闹鬼。
Tīng shuō tā jiāli chángcháng nàoguĭ.
聞くところによると彼の家はよく幽霊が出るそうだ。

“闹鬼”は「幽霊が出る」「お化けが出る」というような意味です。日本語で言う「鬼が出る」というのとはイメージが違いますね。

でも、中国語の“鬼”は「幽霊」だけではなく「心に潜む鬼」的な用法もあるように感じます。“○○鬼”で「○○すぎる人」「○○ばかりする人」というような、人を悪く言う時に使われることがあります。例えば:

酒鬼
jiŭguĭ
飲んべえ、アル中

色鬼
sèguĭ
色情狂

吝啬鬼
lìnsèguĭ
けちんぼ

烟鬼
yānguĭ
ヘビースモーカー

马屁鬼
măpìguĭ
ごますり、たいこもち
(“马屁”はお世辞を言うこと)

こちらの“鬼”は日本語で「酒の鬼」「タバコの鬼」みたいに言ってもそう遠くないイメージでとらえられるかもしれませんが、日本語の場合「酒の鬼」だと「酒に特別なこだわりを持つ人」みたいなプラスイメージで使われることもありそうですから、やはり中国語の“鬼”と日本語の「鬼」、全く別物と考えたほうがいいかもしれません。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本