翻訳コラム

COLUMN

第481回

2020.11.25
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

先日フェイスブックで雑誌「聴く中国語」の編集部が「床」という漢字について書いていました。

曰く、日本語の「床」と中国語の“床”は意味が違う、と。

ちょっと文章の一部を引用してみましょう。

「床」は日本語では基本的に、“部屋の地面”といった意味ですよね。対して中国語の「床」は、“ベッド”という意味なのです。

そう、中国語の“床”には「ゆか」の意味はまったくありませんね。「聴く中国語」が書いている「部屋の地面」(←ちょっと変な表現ですね…笑)のことは中国語ではこう言いますね。




これでOKです。つまり外の地面と同じ言い方になりますね。外ではなく屋内だということをはっきりさせたい場合は:

地板
dìbăn

というふうに言ってもいいです。

しかし、、、日本語の「床」という漢字は「ゆか」以外の意味もありますよね?「聴く中国語」のこの文章でも少し触れています。またその部分を引用してみます。

日本語では起きることを「起床」といいます。この場合の“床”は、ベッドに近い意味のようですが、ベッドそのものではありません。

そうです。「起床」だけでなく「病床」「同床異夢」なんかは「寝る場所、ベッド」の意味ですね。また、「寝床(ねどこ)」「床上げ(とこあげ)」など「とこ」と訓読みする場合は「部屋の地面」(笑)の意味ではなく「寝る場所」の意味です。つまり、日本語では「床」と言う字には「ゆか」と「とこ」の2つの意味がある、というわけですね。

でも、ちょっと考えてみてください。日本では、今でこそベッドで寝る人がとても多いでしょうが、昭和30年代くらいまではどちらかというと、ゆかに布団を敷いて寝ている人がほとんどでしたでしょう?

つまり、もともと中国語では「ベッド」「寝台」の意味しかなかった「床」という字ですが、日本だと「ベッド」「寝台」というものはなかったので、「ゆかに敷いた布団」を指す言葉になったわけですね。そしていつしか「ゆか」の意味が強くなったと、そういうことでしょうか。

もし日本も古来から寝台の上に寝る文化だったら、「床」という字が「ゆか」の意味にはならなかったかもしれませんよね。文化が違えば漢字の意味も少しずれていってしまうということですね。

ほかに同じような漢字あるかなぁと思って探してみましたが、なかなか見つかりません。何かあったような気もするのですが、思い出せない・・・(苦笑)。何かありましたら皆さんも僕に教えてくださいね。

それにしても、こういう違いって本当に面白いですね。僕はつい色々想像してしまいます。こういうのも語学の楽しみの1つですね。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本