翻訳コラム

COLUMN

第485回同音意義

2021.02.03
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

中国語は同音異義語が結構多いですね。

同音、つまり発音が同じなので、同音異義語は聞き取りの時にネックになってきます。完璧に発音が聞き取れていても、「僕の知っている意味と文脈が全然合わない!」となると、やはりパニックになってしまいかねません。

例えば、福島の原発事故以降どうしてもよく耳にするようになった放射性物質の名前、ヨウ素やらウランやらプルトニウムやら。。。以前は核兵器の話など、軍事面の話題でないとなかなか出てこないような単語だったのですが、今では(残念ながら)より身近な話題としても聞くようになりましたね。これらの言葉、中国語ではどういうかというと:

ヨウ素

diăn

ウラン

yóu

プルトニウム



こういう元素名は、中国語ではたいてい1文字の単語です。そうするととても分かりにくいですね。特にプルトニウムなんて“布bù”と全く同じ音ですよ。「プルトニウム」という物質のことを知らなければ混乱してしまいそうですよねぇ。

2文字だとちょっと安心できますが、それでもこんな例があります。

石油
shíyóu
石油

食油
shíyóu
食用油

どちらも油ですし、同じ文脈でも出てきそうですが、混乱しないのでしょうか?(笑)

鸡肉
jīròu
鶏肉

肌肉
jīròu
筋肉

これなんかも混乱しないのかなと思いますね。例えばこんな文を言われて皆さん混乱しないのでしょうか?

健美人群偏爱吃鸡肉,是为了长肌肉。
Jiànméi rénqún piān’ài chī jīròu, shì wèi le zhăng jīròu.
ボディービルダーが鶏肉を特に食するのは、筋肉を育てるためだ。

さて、先日仕事で『アグレッシブ烈子』というアニメを紹介する文章を読む機会があったのですが(笑)、このアニメ、ご存知でしょうか?

サンリオのキャラクターから発展したアニメで、烈子というレッサーパンダのキャラクターが主人公です。動物なのですが、丸の内のOLなのです(笑)。このアニメの登場人物はすべて動物で、擬人化されているのです。

烈子は普段はかわいらしい表情で描かれているのですが、意地悪な上司や面倒な同僚から与えられるストレスがたまってくると、カラオケボックスで一人、ものすごい形相でデスメタルを大声で歌い発散するのです。そのギャップが面白いというのと、OLのためているストレスにも共感が集まり、日本だけでなく世界の色々な国でも大人気なのだそうです。

で、このアニメを紹介する中国語の文章などを見ていたのですが、改めて「ああ、これは誤解しないのかな?大丈夫なのかな?」と思うものがありました。

小熊猫
xiăo xióngmāo

これ、普段は多分「子供のパンダ」の意味でよく見る言葉だと思います。でも実は「レッサーパンダ」のこともこういうのですよね。

いや、むしろ「レッサーパンダ」の意味の方が本来の意味のはずです。我々が言う「パンダ」、あの白黒の動物は、正式には「ジャイアントパンダ」と言い、中国語では“大熊猫 dà xióngmāo”と言います。そして「レッサーパンダ」のことは中国語では“小熊猫”と呼び、ジャイアントパンダと区別しているわけです。でもふつう「パンダ」“熊猫”と言うと、あの白黒のパンダをみんな思い出すので、そのパンダの子供は普通に中国語では“小熊猫”と言ってしまうのです。

この『アグレッシブ烈子』のことを何も知らない人がこの紹介文を読んだら、烈子は子供パンダなのかと思ってしまいかねませんね。

といって、レッサーパンダを指す他の言葉はありませんからね~。

同音異義語って悩ましい。レッサーパンダの場合、字も同じですから、よけい悩ましいですね(苦笑)。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本