第493回三国志の言葉
今日はまたまた三国志の言葉をご紹介したいと思います。いつもは“歇后语xiēhòuyŭ”をご紹介していますが、今日は日本でもよく知られている三国志の言葉を、中国語で何というか、どういう場面を指しているか、といったようなことをお話ししたいと思います。
三顧の礼
日本でもよく使われますね。現代の日本では、仕事や役職などを受けてもらうために何度も足を運んでお願いすることを指しているようです。特に、目上の人が格下の人にお願いする時に使われますね。中国では、まぁ色々な言い方もあるようですが、よく聞くのはこれでしょうか。
三顾茅庐
sān gù máolú
(直訳)草ぶき屋根の家を三回訪ねる
劉備は荊州でくすぶっていた時、自軍にきちんと兵法を修めた軍師というものの存在が必要であると考え、ある人から諸葛孔明という人の話を聞き、ぜひ自分のところに来てほしいと考えました。
劉備は、負けることが多かったとはいえ歴戦のつわもので、中国全土に名前が知られている英傑ですが、まだ世に出ていない若造を自軍に迎えるために、呼びつけるのではなくわざわざ孔明の自宅に出向いて行きました。
しかし1度目は留守。2度目は雪の降る中行ったのにやはり留守。そして3度目、孔明は自宅にいたのですが昼寝中でした。召使の少年が「起こしてくる」と言ったですが、劉備はそれを止め「起きられるまで待たせてもらう」と言って、外に立って待っていました。
昼寝から起きた孔明はさすがに驚き、すぐに劉備を自室に迎え入れました。劉備はようやく孔明と話をすることができ、断る孔明を説得して自軍の軍師として迎えることができたのでした。
こんな、三顧の礼を以て迎えられるような人になりたいと思ったものですが、まぁ難しいですよね(笑)。
死せる孔明生ける仲達を走らす
この言葉、皆さんは聞いたことがありますか?僕は三国志など知らなかった頃でもなんとなくこの言い回しは聞いたことがあるような気がしました。なぜでしょうかね?意味はよく分かりませんでしたが。
これは、死んだ人の威光がいまだに人を恐れさせる、という意味でよく使われますね。
中国語ではこう言うようです。
死诸葛吓死生仲达
sĭ Zhūgě xiàsĭ shēng Zhòngdá
(直訳)死んだ諸葛が生きている仲達を死ぬほど恐れさせる
仲達というのは人名です。司馬懿という人の字(あざな)です。司馬懿は魏の軍師です。つまり諸葛孔明のライバルです。司馬懿は何度も魏軍を率いて孔明率いる蜀軍と戦いますが、たいてい孔明の策に引っかかり痛い目をみるので、基本的には自陣営を閉ざして、打って出ない方針を貫きます。
そしてある日、孔明が戦場で病死します。司馬懿は孔明の死を知り、今こそ蜀軍をやっつける時だとして打って出、敗走していく蜀の兵士たちを追い詰めようとしますが、小高い丘の上に孔明が現れたのを見て、司馬懿は恥も外聞もなく逃げるのです。孔明は司馬懿をおびき出すために自分が死んだと見せかけたのだと、司馬懿は思ったのですね。
しかし実際には孔明は本当に死んでいたのです。ただ、自分が死んだら司馬懿が必ず打って出てくることを知っていたので、対策のため、自分に似せた人形を作って、それを丘の上に出すことで司馬懿を驚かせ、司馬懿が自陣営に再びこもっている間に逃げるよう部下たちに指示していたのでした。
まさに、死んでからも相手に恐れを抱かせる、すごい人ですね。
三国志は現代にも通じる面白いエピソードがたくさんあります。また折を見てお話ししたいと思います。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本