第5回特許権行使における日米比較の例(実務上の問題その2)
弁理士・知的財産翻訳検定試験委員 藤岡隆浩
シリーズ「特許法の国際比較」
シリーズ「特許法の国際比較」
米国の特許訴訟は、陪審裁判となる場合がある点で日本の特許訴訟と相違します。陪審裁判を受ける権利は、合衆国憲法修正第7条で保障されているので、当事者の少なくとも一方が請求すると適用されます。陪審は、民間から無作為で選ばれます。
1.陪審裁判では、以下のように裁判官と陪審の機能の分担がなされています。
(1)裁判官:法律問題(たとえば争点となっている文書の解釈の基準の決定)
(2)陪審:事実問題(たとえば決定された基準に基づく意味の解釈)
2.高裁には陪審が居ません。しかし、地裁での陪審の判断は以下のように尊重して取り扱われます。要するに、高裁では、陪審の判断をひっくり返すのが難しいのです。
(1)法律問題:最初からやり直し(de novo)
(2)事実問題:事実問題について明らかな過誤(clear error)がない限り地裁の判断が尊重されます。
3.特許訴訟における取り扱い
(1)役割分担
- 裁判官:クレーム解釈(マークマンヒアリング)及び禁反言
- 陪審:侵害認定(文言侵害、均等侵害)
(2)手続きの流れ
(2)手続きの流れ
(3)手続きの内容
- マークマンヒアリングは、簡単にいうと、特許の権利範囲を広く解釈すべきとの特許権者と狭く解釈すべきとの被疑侵害者との間の裁判です。裁判官は、クレーム解釈に関する判断を示します。
- 裁判官は、この判断に基づいて陪審に対して説示(Instruction)を行います
- 陪審は、説示に基づいて評決を行います。ただし、評決には、侵害あるいは非侵害の結論や損害賠償額が含まれますが、その根拠や理由付けは必要とされません。
4.陪審裁判の統計データ注
特許訴訟においては以下のような顕著な傾向が出ています。日本企業は、米国企業を相手にする場合には、不利な立場にあることが分かります。
(1)陪審裁判
- 原告(米国人)vs被告(外国人):82%の勝訴率
- 原告(外国人)vs被告(米国人):38%の勝訴率
(2)裁判官による裁判
いずれの場合にも顕著な相違は見られない。
5.特許翻訳との関係
このような陪審制の弊害は、高品質の特許翻訳によってある程度軽減させることができます。次回は、この点について説明します。
注:Kimberly A. Moore, Northwestern University Law Review, Vol. 97, p. 1497, 2003
参考文献:英米法総論(上下):田中英夫著
藤岡隆浩
弁理士・知的財産翻訳検定試験委員
日本弁理士会 欧州部長および国際政策研究部長を歴任
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