第7回特許権行使における「均等物」の問題
シリーズ「特許法の国際比較」
英国には、均等論が存在しないと、前回のコーヒーブレイクで説明しました。しかし、英国にも均等論に近い考え方があります。この考え方は、合目的的解釈論(Purposive construction)と呼ばれています。
1.均等論と合目的的解釈論
均等論は、クレームの文言は厳密に解釈する一方、その範囲から外れても一定の条件を満たせば均等として権利範囲内との認定がなされます。このような考え方は、日米独で採用されています。これに対して、合目的的解釈論では、権利範囲は、あくまで文言の範囲内であるとし、その文言の範囲を緩く解釈して均等物を保護しています。このような考え方は、英国とカナダで採用されています。
2.均等論と合目的的解釈論の目的と機能
両者は、基本的に共通する目的を有しています。すなわち、厳密な文言の範囲のみを特許権の範囲とすると、発明者の保護にかける一方、権利範囲をむやみに広げると第三者の産業活動を阻害するので、そのバランスを測ることを目的としています。
ここで、両者のバランスを測るために保護すべき対象は、均等物と呼ばれます。均等物は、均等論と合目的的解釈論のいずれの方法でも保護することが可能です。
3.EPC2000の第69条議定書との関係
EPC2000制定時においては、均等論の導入を支持するドイツと反対する英国とが激しく対立しました。この結果、最終的には、英国案が採用され、均等物の保護は、均等論だけで無く、合目的的解釈論でも良いことが確認されました(注参照)。
4.AIPPIによる包括的調査
AIPPIは、AIPPIQ175において世界各国の均等物について包括的な調査を行っています。
AIPPI Q175: The role of equivalents and prosecution history in defining the scope of patent protection
https://www.aippi.org/?sel=questions&sub=listingcommittees&viewQ=175#175
注:EPC2000改正の外交会議資料
http://www.epo.org/law-practice/legal-texts/archive/documentation/travaux-preparatoires/dc-documents.html
藤岡隆浩
弁理士・知的財産翻訳検定試験委員
日本弁理士会 欧州部長および国際政策研究部長を歴任
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