第8回均等論や合目的的解釈論と特許の有効性の問題
シリーズ「特許法の国際比較」
1.自由技術の抗弁とは
均等論と合目的的解釈論は、いずれも特許権者と第三者のバランスを測ることを目的として均等物を権利範囲内として保護する点で共通しています。では、一体何処が違うのでしょうか。両者の相違は、均等物が先行技術の範囲内となったときに顕在化します。
均等物が先行技術の範囲内である場合には、出願時に既に公開されている技術なので権利行使を認めることは妥当ではありません。均等論と合目的的解釈論の両者は、結論において権利行使を認めない点で共通しますが、この問題の処理において、大きく相違することになります。
2.先行技術の取り扱い
(1)合目的的解釈論
均等物は、合目的的解釈論では文言の範囲内なので、新規性がなく無効となります。したがいまして、均等物が合目的的に文言の範囲と主張することは無効であることを自認することになりますので、いずれにしても権利行使ができません。よって、この問題は、簡単に解決します。
(2)均等論
1.日本
均等論の要件(第4要件)として取り扱っています。具体的には、「対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一または当業者がこれからこの出願時に容易に推考できたものではないこと(非公知技術)」を均等の要件としています。すなわち、均等物が先行技術の範囲内である場合には、均等でないとして取り扱っています。
2.米国
仮想クレーム理論(Wilson Sporting Goods Co. v. Davaid Geoffrey & Assoc., 904 F.2d, 677, 14, U.S.P.Q.2d, 1942 (1990))で処理されます。すなわち、均等物を含む仮想クレーム(hypothetical claim)に特許性(新規性や非自明性)が認められなければ、権利行使できないとしています。同じ判例法の国である英国の考え方を取り入れているようにも思えます。
3.独国
自由技術の抗弁(Einwand des freien Stand der Technik; Formstein-Einwand)として処理されています。すなわち、均等の範囲であっても、出願時に既に知られた技術なので、権利行使を認めるべきではないとする抗弁です。
3.まとめ
均等論は、文言の範囲と均等の範囲という2つの基準で判断します。ところが、均等の範囲は、権利範囲の例外として機能し、審査対象との関係が一義的に自明ではありません。それ故に、均等物が先行技術の範囲内である場合に、実務上の問題が顕在化します。しかしながら、結論は、先行技術の取り扱いに関しては共通するものとなります。
藤岡隆浩
弁理士・知的財産翻訳検定試験委員
日本弁理士会 欧州部長および国際政策研究部長を歴任
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