翻訳コラム

COLUMN

第19回ミラートランスレーション(その6:日本における取り扱い(英日翻訳))

弁理士・知的財産翻訳検定試験委員 藤岡隆浩
シリーズ「特許法の国際比較」

1.グレーゾーンの問題

補正可能な範囲には、グレーゾーンがあります。補正可能か否かは、法的な判断であり、法的な知識と特許出願手続きにおける実務経験が不可欠です。このグレーゾーンの取り扱いが重要です。グレーゾーンの問題は、弁理士が対処します。

グレーゾーンの問題

2.ミラートランスレーションの翻訳実務

実務上は、このような観点から弁理士と特許翻訳者の一例として以下のような役割分担が決められています。

(1)特許翻訳者

特許翻訳者は、原文に誤記等があっても修正可能か否かの判断を行わず、原文の通りに翻訳し、原文に誤りがあることをコメントします。PCT翻訳で一般的に行われている実務です。

(2)弁理士

弁理士は、コメントを参考にしつつ、明らかに補正可能な範囲については翻訳の段階で修正します。この明らかに補正可能な範囲は、弁理士の実務経験や考え方によって相違します。一方、補正可能か否かが明らかでない部分については、補正書を特許庁に提出して審査官の判断を仰ぎます。

(3)法的な取り扱いの違い

  1. 翻訳の段階での修正
    特許庁において補正可能か否かの判断の機会が失われてしまうので、特許後に権利行使の段階で相手側は、そこを攻撃してきます。すなわち、特許無効の主張がなされることになります。
  2. 特許庁における補正
    特許庁において補正可能との判断を経て特許がなされているので、権利行使の段階では相手側は、そこを攻撃し難くなります。すなわち、特許無効の主張が困難となります。

藤岡隆浩

弁理士・知的財産翻訳検定試験委員
日本弁理士会 欧州部長および国際政策研究部長を歴任