第21回ミラートランスレーション(その8:外国における事件(英中翻訳))
弁理士・知的財産翻訳検定試験委員 藤岡隆浩
シリーズ「特許法の国際比較」
シリーズ「特許法の国際比較」
今回は、PCT翻訳の誤訳が原因で特許が無効になってしまったという恐ろしい事件(無効審判事件)を紹介致します。出願人は、スイスの企業で日本と中国を含む9カ国に国内移行しているようです。国際出願番号は、PCT/IB2000/000935であり、英語で出願されています。
この事件は、日本国特許庁の新興国等知財情報データバンクで紹介されています。
http://www.globalipdb.jpo.go.jp/application/146/
1.中国と日本における国内移行
中国でのみ誤訳が発生していますが、日本の対応特許は事件の理解に役立ちますので日本の対応特許も紹介します。
(1)中国
- 国内移行(第00819415.7号)
- 公告(CN1330266C)
- 特許公報(第00819415.7号)
(2)日本
- 国内移行(特願2002-508288)
- 国内公表(特表2004-502480)
- 特許公報(特許第4756182号及び特許第5228147号(分割))
2.誤訳発生の経緯
(1)原語
- 「welded by chemical bonding」(日本語仮訳「化学結合によって・・・溶着」)
- 「welded together chemically」(日本語仮訳「化学的に溶着」)
(日本語仮訳は、特願2002-508288を参考にしました。)
(2)PCT翻訳
「化学粘合剂粘接」(日本語仮訳「化学接着剤によって・・・接着」)
(日本語仮訳は、特許庁ウェブサイト(上述)が出典です。)
(3)出願係属中における補正(中間処理)
「化学連接粘接」(日本語仮訳「化学的連結によって・・・接着」)に補正して特許されました。この補正は、誤訳のあるPCT翻訳から離れて、PCT出願の原語に戻す補正です。日本語仮訳は、特許庁ウェブサイト(上述)が出典です。
(4)無効審判(特許後)
出願明細書(PCT翻訳)には、「化学粘合剂粘接」との記載はありますが、「化学連接粘接」との記載がないので、本補正は、補正可能な範囲を超えて行われたものと認定されました。この結果、この中国特許は無効であるとの審決がなされました(中国特許法第33条違反)。
3.化学粘合剂粘接(化学接着剤)の語について
本発明は、合成樹脂等で形成されている歯とテープとを溶着することを特徴とし、接着剤が使用されていません。
次回は、この審判事件について少し詳しく解説します。
藤岡隆浩
弁理士・知的財産翻訳検定試験委員
日本弁理士会 欧州部長および国際政策研究部長を歴任
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