第22回ミラートランスレーション(その9:外国における事件(英中翻訳))
シリーズ「特許法の国際比較」
今回は、PCT/IB2000/000935の中国特許取得手続きにおいて無効理由が発生した経緯について説明します。本事件では、誤訳および手続き上の不備によって中国特許が無効とされてしまいました。
1.中国国内移行時(PCT翻訳時)
原文において「化学的連結」と記載された事項がPCT翻訳によって「化学接着剤」と誤訳されています。したがいまして、「化学的連結」の語が削除され、「化学接着剤」が新規事項として追加されたことになります。
2.中間処理手続時
中間処理手続とは、審査官が記載の特許明細書の明確性や特許性(新規性や進歩性)の観点から拒絶を行い、この拒絶に対して出願人が補正等によって記載の明確化や権利範囲の減縮を行う手続きです。補正手続きには、PCTの原文の記載に基づく補正(ここでは誤訳訂正と呼びます。)と、PCT翻訳に基づく補正(ここでは通常補正と呼びます。)とがあります。
出願人は、通常補正によって「化学接着剤」を「化学的連結」に変更しました。しかし、PCT翻訳によって「化学的連結」の語が削除され、PCT翻訳から欠落していますので、根拠を欠いた補正となっています。出願人は、誤訳訂正によって「化学接着剤」を「化学的連結」に変更するべきでした。誤訳訂正では、PCT原文に基づいて補正の可否が判断されるからです。
3.特許査定
審査官は、この補正の違法性を見落として特許査定を行いました。したがいまして、無効理由(中国特許法第33条違反)を有する状態で特許が付与されたことになります。
4.無効審判(特許後)
出願明細書(PCT翻訳)には、「化学粘合剂粘接」(化学接着剤)との記載はありますが、「化学連接粘接」(化学的連結によって・・・接着)との記載がないので、本補正は、補正可能な範囲を超えて行われたものと認定されました。この結果、この中国特許は無効であるとの審決がなされました。
少し杓子定規ですね。次回もこの話が続きます。
藤岡隆浩
弁理士・知的財産翻訳検定試験委員
日本弁理士会 欧州部長および国際政策研究部長を歴任
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